13時05分、私は永平寺揚げの工場の前にいた。
とにかく腹が減っていた。
しかし店内飲食はやっていないらしい。
私は土砂降りの雨の中、
近くにあるえちぜん鉄道の轟駅を目指した。
時刻表を確認すると12分発がある。
何か食堂でもあれば入ればいいし、
なければ福井まで電車で帰るつもりだった。
もう性根尽き果てていた。
すぐに踏切があり、
轟駅が見える。
そのまま線路を歩けばすぐに駅なのだが、
いかんせん道路がない、見当たらない。
こんな何もないところで30分に1本の電車を待つなんて、
絶対に避けたかった。
何もかもずぶ濡れで、
惨め以外の何物でもなかった。
駅まではぐるっと大回りすることになった。
踏切の警報音が聞こえ始めた。
私は雨の中をダッシュした。
ホームに駆け上がるとちょうど電車が入ってきた。
電車が出発するなり雨はやみ、
青空も見え始めた。
せっかくだから永平寺でも行ってみるか、
ぼんやりそう考え、
永平寺口駅なら何か食堂くらいはあるだろう、
そんな淡い期待を持っていた。
時刻表を確認すると、
電車に接続する13時25分発があり、
次は14時12分、ちょうど昼食をとるのにいい。
ところがここで私は余計なものを見つけてしまった。
それが82系統・丸岡永平寺線だ。
一日わずか7往復、全便休日運休。
永平寺口駅の出発時刻は13時22分。
私はしばし考える。
これまたレアな路線であるような気がする。
永平寺口駅につくと空はすっかり晴れていた。
駅前に小型バスが止まっている。
乗るなり運転手氏に
「このバスは永平寺は行かないよ」と言われる。
ええ、大丈夫です、
私は最後尾のシートに腰を下ろす。
貸切状態でバスは出発した。
時刻表と路線図を確認する。
永平寺東尋坊線・永平寺線・金津東尋坊線が一体運用されており、
福井を代表する観光地を結んでいる。
このルートでの永平寺口〜本丸岡間の所要時間は20分。
しかし82系統は大回りをして38分を要する。
さらにJR丸岡駅に到達するのは82系統しかない。
永平寺揚げの工場で食事がとれなかたからこそ、
この希少なバスに乗れたのだ。
私はそう考え、満足しすることにした。
JR丸岡駅への到着時刻は14時12分だ。
何か食堂くらいはあるだろう。
私の空腹感はもはや限界に達していた。
バスは田園地帯を淡々と進む。
大学病院や中学校、
いとんなところに立ち寄った。
しかしバス停には誰も居ない。
やがて丸岡の市街地へ。
結局誰一人乗らないまま、
バスはJR丸岡駅に着いた。
駅前は閑散としていた。