北陸徘徊人

福井・石川・富山を中心にゆるーい旅を満喫中

毛谷黒龍神社

DSC03124.jpg 

「俺、もう耐えられないよ」

帰宅するなり夫はそんなことを言う。

こんな時、わたしはどんな声をかけてあげればいいのだろう。

何言ってんのよ、頑張ってよ、

そんな言葉だと軽率な気がする。

 

夫の転勤で福井に来て3ヶ月が過ぎた頃だ。

日に日に夫の元気がなくなっていくのは目に見えて分かっていた。

とにもかくにも支店長とあわないらしい。

 

ある日の夕方、

私の携帯がなった。

夫からだった。

 

出ても何も言わない。

でも何かこすれる音がする。

続けてノックの音。

「失礼します」夫の声。

「失礼します、じゃねんだよボケェ!」

 

電話越しにもその声は強烈に聞こえてきた。

もう完全なパワハラだ。

しばらく聴いていたがうんざりして私は電話を切った。

 

夫はまだ20代後半だ。

転職すればいいと思う。

しかしそれは考えていないようだった。

あわないのは支店長だけで、

会社に対する愛着心はあるらしい。

 

分かるようで分からない。

あんな暴言を毎日吐かれるなんて考えただけでゾッとする。

 

けど、

わたしは妻として、何ができるンだろう。

 

専業主婦であるわたしの行動範囲なんてたかがしれている。

スーパー、ドラッグストア、図書館。

いずれも自転車で10分以内だ。

この街には友達もいないし

知り合いもいない。

 

何とか夫を会社に送り出し、

ひと通りの家事を済ませ、

買い物にでも行こうと自転車に乗ろうとした時だ。

郵便局の配達員が白人女性に話しかけられて

とまどっているのが見えた。

 

その白人女性は私のもとへやって来た。

「スミマセン」

たどたどしい日本語でそう言うと、

わたしにメモを見せた。

「keyakurotasu-jinja」

 

わたしも一応スマホくらいは持ってるし、

そのまま「ケヤクロタツ」と打ち込んでみた。

毛谷黒龍神社と書くようだ。

さらに福井県屈指のパワースポットであるらしい。

 

「ご一緒します」私が言うと、

彼女はにっこり笑った。

 

何とかカタコトの英語で会話した感じでは、

彼女はスゥエーデンから来て、

武生で和紙づくりの勉強をしているらしい

ことだけは分かった。

 

10分もたたずに

「毛谷黒龍神社」に着いた。

さほど大きな神社という訳でもない。

境内では雅楽が流れており、

それだけで神妙な気分にさせられた。

DSC03121.jpg

DSC03119.jpg

死んだおばあちゃんがよく言っていた。

「神社はね、

 感謝をするところで願い事をするところじゃないのよ」

 

わたしはその言葉を信じていた。

神様だって願い事ばかりされるより、

感謝された方が嬉しいだろうし気分もいいだろう。

 

でも、たまにはなにかお願いしたくなる時だって、ある。

 

この神社には「願かけ石」なるものがあった。

願い事をかけて、石を3度打ってください、とある。

「夫を助けてやってください」

そう願って石を打ったら、

思ったより甲高い音が響いて驚いた。

DSC03091.jpg

DSC03095.jpg

DSC03129.jpg

DSC03131.jpg

DSC03127.jpg

遠い異国から来た女性が、

この神社に導いてくれたのだ、

これも何かの縁だと思った。

その日から私は毎日のようにこの神社に通うことなった。

 

2週間ほど経った頃か、

帰宅した夫の機嫌がずいぶんといい。

支店長の異動でも決まったのかと思ったら、

新入社員が配属されたとのこと。

 

「思いっきり体育会系でさ、妙に可愛いンだよな」

などと嬉しそうに語る。

いまどきの若者で支店長も面食らっているらしい。

夫が会社での出来事をこんな楽しそうに語るなんて、

初めてのような気がした。

 

きちんと毎日お詣りすれば、

きっと良いことが起こる、

わたしは信じている。

Sponsored Link