北陸徘徊人(元)

富山、福井、石川を中心にゆるーい旅を満喫中

北陸・某老舗温泉旅館の憂鬱

先日は相方の誕生日であった。

世の男性方、いや、僕のような40代の初老男性は

相方の誕生日を果たして祝うものなのか、

そのあたりはよくわからない。

 

少なくとも僕なんかは自分の誕生日が来るたびに

憂鬱になる。

全然おめでたい気もしない。

 

相方に対しても

「年相応の肌になってきたなー」なんて言ってしまい

平手が飛んでくることなど度々ある。

 

ただ、一応は記念日であるから

ささやかに祝おうと考えた。

ところがちょっとしたホテルでディナーなんてガラでもない。

 

で、考えたのが温泉一泊である。

そんな遠くへ行かなくとも、

近場にだってそこそこ温泉はある。

 

 

 

検索してたらとあるサイトで「え?」となった。

そこは北陸のガイドブックを開けば必ず載ってるような、

超有名旅館であり、超老舗旅館であり、

僕が北陸暮らしを始めてからずっと憧れていた旅館だった。

 

いつかは泊まってみたい、

とは思いつつ、

僕のような一般庶民にはとうてい手の届かない、

イクラスの宿だ。

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ところが、案外良心的な価格なのだ。

これなら何とかなるか。

せっかくの誕生日だ、、、

 

とはいえその旅館のイメージからすれば安く感じただけで、

冷静に考えればやはり高いのである。

 

僕なんかは普段行ってるスーパーで38円のもやしすら買わず、

わざわざドラッグストアに行って

22円のもやし一つもってレジに並ぶ人間だ。

 

パソコンの前でしばし悩んだ。

悩みに悩んだ。

これだけ悩んだのは、

グランクラスに乗るか乗らないかで葛藤した時以来である。

 

僕は基本的に脳天気な人間なもので、

普段は「悩む」ということがほぼないのだが、

今回は悩んだ。

悩みに悩んで、せっかくだし、と予約ボタンをクリックした。

 

で、当日。

 

宿の前に車を乗り付けたら、

相方は「ホンマにここ泊まるン?」とキョトンとしている。

だいたい僕らの旅行など、

民宿か格安のバイキング宿、狭いビジホばかりで、

ほとんど宿にカネをかけない。

 

「まあな、せっかくの誕生日だし」

なんて言ってみる。

 

駐車場係の方が寄ってきたのでキーを預ける。

うむ、なかなかいい気分である。

 

チェックインをすますと抹茶と菓子のサービス。

庭も美しい。

いい気分である。

 

で、部屋へ、となったのだが、

仲居さんが随分と高齢の女性である。

間違いなく私の母より上であろう。

 

僕はたいした荷物も持っていなかったので、

相方のカバンだけを持ってもらった。

するとこの仲居さん、

カバンをひょいと肩にかけたのである。

 

うむ、うまく表現できぬ。

 

サンタクロースが袋を持ってるような、

そんな持ち方。

僕は女性の作法など知らぬ。

しかし非常に違和感があった。

 

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北陸の温泉宿なので規模は大きい。

 

延々と歩いた先にエレベーターがあった。

そこでこの仲居さん、

「で、お客さん何号室でしたっけ」

などと言う。

 

鍵を見せると、

「あー、なら7階ね」とエレベーターのボタンを押した。

 

部屋なんてびっくりするくらいに広い。

眺めもよろしい。

 

すると仲居さん、

「お客さん、こっちこっち」と窓際に手招きする。

「ここが非常口だから。で、お風呂はね、ほら、あそこの建物見える?ほら、庭の先に建物があるでしょ、あそこだから。お食事はね、そこの2階」

 

あそこって何処やねん(笑)

 

「来られた時にお茶飲まれたかた今はもういいですね。またわからないことあったらフロントに電話ください。すぐに駆けつけますので」

仲居さんはそう言い残すと出て行ってしまった。

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さて、部屋は本当に広いし、

造りも豪華である。

多分、我が家より広い。

座布団の厚みなんて我が家の3倍くらいある。

 

ところが気になる点があった。

タバコ臭だ。

たまに吸う僕でも気になるのだ。

まったく吸わない方にはかなり強烈であると思われた。

 

ひとまずは風呂である。

さすが老舗だけあって重厚、かつ広い。

浴槽には美しい湯が満ちている。

流石は北陸の宿だなと関心する。

 

北陸の温泉宿は他の地域と比べても、

内湯の造りが豪華であることが多い。

これに対して露天風呂は?がつく宿が多い。

 

雪が降るという事情もあるのだろうが、

もともと露天風呂があった宿は少なかったと推測する。

そんなもので後から強引に作ってみました、

てな感じの宿をよくお見受けする。

 

今回の宿も同様であった。

庭に強引に作った、そんな感じ。

さらに外に出てから浴槽までが

微妙に距離がある。

 

この日は恐ろしく寒かった。

何もかもが縮んだ。

 

風呂あがり、

ビールでも飲もうと自販機コーナーに行ったら、

フットマッサージャーが置いてあった。

さらに漫画もある。

 

てなもんで缶ビールをプシュリとやって、

フットマッサージャーのスイッチをオン。

すると地獄のように痛い。

自覚している以上に身体はボロボロなのかもしれない。

 

本棚に「タッチ」があった。

あだち充さんの名作である。

ナイン、陽あたり良好!、みゆき、タッチ、

僕の小学生〜中学生時代はまさに

あだち充さんの作品で育ってきた。

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ところが悔しいことに、

ここにあった「タッチ」は2・3・4巻のみである。

あっと言う間に読んでしまった。

帰ったらブックオフに行こう、と思った。

 

気づけば夕食の時間であった。

はて、夕食会場は何処だ?と階段を上がったら、

オジサンがやってきて「何号室ですか?」と聞いてきた。

僕は部屋番号を告げた。

 

するとこのオジサン、

「いやー、お客さん、全然違う、全然違う、こっち、こっち」

などと言う。

 

で、階段を下り始めたので、

「仲居さんが風呂の2階だって言ってたンですけど」

と言えば、

「え?ご飯?ならここでいい」

などとヘラヘラ笑う。

 

で、この食事会場、

食事処と言うのか、が、

思いっきり「会議室」であった。

他に表現が思い浮かばない。

 

ここにも、例の仲居さんがいた。

他にも、まあ何人かいた。

 

メガネをかけた若い男が、

鍋と陶板に火をつけた。

そして「お飲み物はどうしましょうか」と言った。

瓶ビールと烏龍茶を注文した。

 

僕の後ろの席に年配の夫婦がやってきた。

今度はちょっと凛々しい雰囲気の若者が火をつけに来た。

凛々しい雰囲気の若者は、

「こちらはブリしゃぶになっております。先に野菜をお入れください」

なんて言っている。

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それを背後で聞いてから、

僕らも慌てて野菜を鍋に入れた。

 

すぐに瓶ビールと烏龍茶がやってきたので、

フツーに相方と乾杯した。

 

男性5人のグループがやってきた。

メガネの若者が彼らの鍋と陶板に火をつけて、

やはり飲み物を聞いたのであろう。

リーダー格の方が「ナマ5つ」と言った。

 

ところがこの「ナマ5つ」がなかなか来ないのである。

傍から見てる僕の方が気になるくらいだった。

案の定、リーダー格の方がそこにいた凛々しい雰囲気の若者に

「なあ、ナマまだか」と言った。

 

凛々しい雰囲気の若者は

「厨房が遠いのでもうしばらくお待ち下さい。瓶ならすぐにお持ちできますが」

などと言う。

 

するとリーダー格の方は

「なら瓶ビール持ってきてよ、早く」

と言った。

 

すると瓶ビールの方が先に来た。

5人組が乾杯してる最中に生ビールが届いた。

 

僕らの隣の席にはやはり夫婦がいる。

2人ともお酒を召されないようで、

食事の進行は早い。

 

僕はこの夫婦に何が出されるかをチラチラ見ていた。

次は揚げ物が来るのか、茶碗蒸しも来るのか、

そんな具合である。

残念ながら「おしながき」はなかった。

 

この夫婦のもとに、

例の年配の仲居さんが、天ぷらを持ってきた。

するとこの夫婦は当然だが、

「もう頂きました」なんて言う。

すると「え!」と年配の仲居さんはオロオロし始めた。

 

何せ、びっくりするほど意思の疎通ができていないのだ。

みんな「バラバラ」に仕事をしている。

そんなもので、一通りの食事を終えてデザートを待っている夫婦に

「天ぷら」が届くのだ。

 

この夫婦のもとにはこの後に「茶碗蒸し」が届き、

やはりとまどっていた。

その茶碗蒸しは順番からいけば僕らのテーブルに来ると思われた。

ところがその茶碗蒸しは僕の後ろの夫婦のもとへ運ばれた。

 

僕も相方も、笑いがとまらなくなっていた。

もう、はちゃめちゃである。

どのテーブルがどれだけ食事が進んでいるのか、

そこにいるスタッフが誰も把握していないのだ。

ある意味驚愕の光景と言えた。

 

観察してるのが楽しすぎて、

さっぱり何を食べたのか記憶にない。

ま、その程度のものであったのだろう。

 

それにしても、だ。

僕と相方は「それなり」の旅館と相性が悪いのかもしれぬ、

そんな気もしてきた。

 

前回「宿」に奮発したのは奥飛騨の宿である。

2年前だ。

ここも「いつか泊まってみたい」そんな宿だった。

 

秋の連休の時期で、

目ん玉飛び出るような値段であった。

しかし、僕が仕事で半年ばかり家をあけていた後であったもので、

ここぞとばかりに奮発した。

 

予定が狂ったのは「新穂高ロープウェイ」に行ってからだ。

駐車場に入るまでが大渋滞、

第一ロープウエイと第二ロープウエイの乗り継ぎが2時間待ちだった。

下りのロープウエイに乗るのも大行列である。

 

「到着が遅くなります」と僕は旅館に連絡を入れた。

「え、何時頃になります????」

「まだ分からないです、並んで待ってる段階なんで」

「困りましたね、なら着いたらすぐご飯にしてくださいね」

「はあ」と電話を切った。

 

その場所は標高2000メートルを超えている。

屋内とはいえ身体も冷えきっていた。

やっとこさロープウェイに乗って下れば既に真っ暗である。

早く風呂に入りたかった。

身体を温めてキューッとやりたかった。

 

ところが旅館に着いたらチェックインの段階で

「まずご飯を食べてください」なんて言う。

部屋に案内してくれた仲居さんまでもが

「申し訳ないのですが先にご飯をお願いします」と追い打ちをかける。

 

冷えきった身体のまま食事処へ行った。

なかなかいい雰囲気の食事処だった。

日本酒の飲み比べセットみたいなのがあったので、

それを注文したことも覚えてる。

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その時は「飛騨牛ステーキ付き特別プラン」を奮発していた。

飛騨牛ステーキ」は実にウマかった。

あー、食った、食った、満腹だ、

なんて言ってたあとに「飛騨牛ステーキ」が出てきた。

 

どうやらさっき食べたのはノーマルの食事に含まれる「飛騨牛の陶板焼き」で、

こっちが「飛騨牛のステーキ」であると言う。

ちなみにこの時点で僕は酒を飲み、

米を食べ、デザートを待っている状況であった。

「・・・」

 

話は戻る。

 

しかしまあ、何と言うか、

僕らは近所の人間だから笑ってすませるかもしれないが、

遠路はるばるやってきた方には間違いなく「ガッカリ」する光景であろうと思われる。

食事も一品一品はおいしく頂いたが、

北陸らしさを感じるものなど何一つなかった。

 

あえて言えば「ぶりしゃぶ」であったのかもしれないが、

「これが北陸の名物です」

と一言あるだけで随分気分は違ったであろう。

陶板焼きも地元の肉を使っているとのことであったが、

あくまで後ろの席に対する説明が聞こえたにすぎない。

 

食事を終えて部屋に戻った。

テレビをつけたら

「チャンネル多いなー」と相方が言った。

「ほんまやなー」と僕は言った。

酒を飲んで寝た。

 

翌朝のことである。

朝食会場は夕食と同じそのまんま会議室であった。

味噌汁が小鍋に入っていた。

もうひとつ陶板があり、手前に魚が一匹。

例の仲居さんが火を付けに来た。

 

「福井は赤味噌?」

なんて聞かれたから、

「いや、フツーの味噌です」

と答えたら

「あ、そう」とだけ言ってどっか行った。

 

背後の席に夫婦がやってきた。

ここには凛々しい雰囲気の若者が鍋に火をつけに来た。

「味噌汁はすぐに煮えますのでご注意ください。こちらはノドグロです。さっとあぶってお召し上がりください」

 

なぬ、これは「ノドグロ」であったのか(笑)

 

チェックアウトを済ますと、

玄関先にクルマが来ていた。

いい気分である。

 

乗り込んだのはいいが、

前のクルマがさっぱり動かない。

何をやっているのか分からぬ。

 

玄関先には見送りの方が突っ立っている。

何だか全然落ち着かない。

バックしたいが後ろにもクルマがいる。

前のクルマが動いたのは10分後である。

 

助手席の相方はスマホをいじりながら、

「こないだ(友達と)行った芦原の清風荘は良かったよ」

と言った。

僕は何も答えることができず、

おとなしく福井へ帰った。