北陸徘徊人(元)

富山、福井、石川を中心にゆるーい旅を満喫中

福井鉄道610形電車に乗って鯖江に昼飯を食べに行く 〜鯖江・味見屋の醤油カツ丼〜

気づけば11月も20日を過ぎていた。

 

カレンダーをめくれば残す所あと1枚

何となく脳裏に思い浮かんだのは

福井鉄道の610形電車のことで、

いったいいつまで運行するのだろう、

先日鯖江に行ってからそんな不安な日々を送っていた

 

そもそも今年中にあと何回、

武生や鯖江に行けるかも分からない

行ける時に行っておかなければ後悔する。

 

僕は飯でも食いに行こうと思って家を出た。

 

先週、鯖江に向かった時、

市役所前を9時38分に出る武生行きの急行に乗ったのだが、

その車両は路面電車型の車両で、

途中の神明駅ですれ違った車両が610形であった。

 

ということは、その日のダイヤだと、

市役所前を10時38分に出る武生行きの急行が

610形であったといえる

そんなもので僕は今回はその10時38分発を狙って、

駅前に向かった。

 

 

 

我が家は福井駅の東側で、

要するに福井鉄道はJRを挟んだ先になるのだが、

福井駅に向かっていると、

足羽川にかかる幸橋を渡る電車の様子が見える場所がある。

 

市役所前を10時38分に出る電車というのは、

10時32分に田原町が始発の電車である。

この電車は時刻表をたどれば、

9時44分に越前武生を出て、10時26分に田原町に着く電車である

この電車の市役所前着は10時20分。

 

要するに10時18分頃に幸橋を田原町方面に向かう電車が

10時38分に市役所前を出る急行電車であると言えた。

僕はしばらくそのポイントで幸橋の方を眺めていたのだが、

その時間に幸橋を渡っていったのは路面電車型の車両だった。

 

「・・・・」

 

こうなりゃ意地でも610形に乗ってやりたくなってきた。

 

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平日日中の福井鉄道の電車は

1時間あたり片道4本運転されている

田原町駅から越前武生へ向かうダイヤを確認すれば

 

02分発急行

24分発普通

32分発急行

54分発普通

(2016年11月現在の平日ダイヤ)

 

こんな感じになっていて、

02分発がえちぜん鉄道から乗り入れてくる

いわゆる「フェニックス田原町ライン」の電車で、

FukuramやKi-boといった新型の車両が充当されることが多い。

 

これに対し、32分発の急行は

610形と従来の路面電車型の車両が交互に運行される、

これまでの経験上はそうだった。

無論、610形が入らない日もある。

 

1時間、待ってみるかな、

今日はそんな気持ちになってきた。

これで610形がこなければ、

今日は福井市内で昼飯にしよう。

(電話して聞けよという突っ込みはナシで・笑)

 

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ただ、じっと待ってるのも何なので、

結局田原町まで歩いてしまった。

福井駅からならたいした距離でもないけど、

家から歩いてきたのですでに1時間近く歩いており、

すでに腹が減ってきた(笑)

 

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田原町の歩道橋でしばらく電車を眺める。

この日は普通運用に入っているFukuram長男(オレンジ)が、

武生方面へと出発して行き、

次にやってくるのは鷲塚針原行きのフェニックス田原町ライン

と思っていると、

現れたのはFukuram三男坊(グリーン)だった。

いつの間にかこっちの運用にも入っていたのね。

成長したなア(笑)

 

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三男坊と福大前西福井ですれ違った次男坊(ブルー)が出発してゆき、

次にやってきたのは路面電車型の普通電車。

この電車が田原町でしばしの待ち時間の後折り返してゆき、

さて、次だ。

610形でありますように!!

 

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たまには願いも通じるものである。

現れたのは610形であった。

田原町のカーブを通過するだけで

「ギーギー」とすさまじい音がする。

 

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歩道橋を降りて田原町駅へ走る。

きっぷを買おうとして、

はて、何処まで買おうかと思う。

 

一応、僕の行動の本来の目的は「飯を食う」ことであり、

電車で行くのはその手段にすぎない。

どうせ電車で行くなら好きな車両で行きたかっただけで、

そのために1時間待ったのである。

 

せっかくだし、

行きも帰りもこの車両に乗りたいところであるが、

武生まで行ってしまうと折り返し時間をみても

「飯を食う」までの余裕はない。

 

そんなもので西鯖江までのきっぷを買った。

鯖江の商店街にも以前から気になっている食堂がある。

 

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ステップを上がり車内へ。

「ジリジリジリ」とベルのような音がなり、

扉が閉まると同時にステップも格納されるもので、

「バタン!」と激しい音がする。

 

田原町駅からフェニックス通りへ出る際のカーブでも、

「ギシギシギシギシ」とすさまじい音が響きわたる。

「あたしゃ疲れたよ、限界だよ」

と言ってるような気もする。

 

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車内はロングシートがあるだけ、と潔いほどシンプルだ。

近年の車両は低床化ゆえの機器の配置上、

車内の構造がどうしても複雑になりがちだ。

しかしながら610形にはそんなことは一切関係ない。

 

都市部におけるロングシートの車両は

吊り広告で車両本来の美しさを損ねているが、

610形にはそんな吊り広告すらない。

まさに質実剛健

 

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併用区間内では

運転士はほぼ立ちっぱなしで安全確認に努めていた。

路面電車型の車両なら何なく通り抜けそうな交差点も

右折車両の停止位置ひとつで行く手を遮られる。

 

かつて大型車両ばかりだった頃は、

ダイヤを維持するのも大変であったのではなかろうか、

そんなことも察する。

のそのそと610形はクルマに遠慮しつつ福井市内を南下する。

 

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新木田の交差点から専用軌道に。

610形ようやく鉄道らしい走りを取り戻す。

見慣れた光景が

ほんの少しだけ視点が高くなるだけで、

新鮮な光景に感じる。

 

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12時06分、西鯖江着。

名残惜しいがここで610形を見送る。

この車両が越前武生まで行き、運用離脱しない限り

12時53分発の田原町行き急行となる「はず」だった。

それまでに昼食を済ませておきたい。

 

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西鯖江駅からJR鯖江駅方面に5分ほど歩けば

昭和の香りが色濃く残る商店街がある。

その商店街の入り口に「味見屋」さん。

商店街のサイトによると創業110年とのこと。

 

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店の前に立った瞬間から、

ソースというか醤油というか出汁というか、

さまざまなものが入り混じった、

何とも「食堂」っぽい香りがした。

 

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年季の入った店内はどことなく薄暗いが、

まさにこれぞ「食堂」てな雰囲気。

各テーブルには1人客、ないし2人客がいて、

適度に席が埋まっている。

 

メニューを開けば

ハンバーグやオムライスといった洋食から

中華そば、おろしそばといった麺類、

丼物にいたるまでまさに何でもある。

 

何とも感じのいい奥さんに「醤油カツ丼」を注文。

 

ちょうど昼時だったということもあるだろうが、

店内には絶えず人の出入りがある。

ごちそうさん」と1人出ていけば、

1人ないし2人入ってくる。

 

客層も随分広くて、

1人のサラリーマン、学生風の方々、

中年のご夫婦に年配の夫婦、年配の女性、、、

 

案外年配の方が多いというのもあるのだろうが、

どことなく店内はのんびりした空気が漂っていて、

店構えだけでなく客層的にも

一昔前に戻ったような気分になる。

 

それぞれが中華そばを食べてたり、

丼をかきこんでいたり、

漫画読みながらカツカレー食べてたり、

思い思いの時間を過ごしていた。

 

ほどなくして醤油カツ丼が登場。

奥さんいわく

「醤油はかかってますので、物足りなかったら足してください」

とのこと。

 

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蓋をとれば、カツと水菜、鰹節の他に、

何やら丸い揚げ物が。

はて、こりゃ何だと箸できってみれば、

何と半熟卵のフライである。

 

いやはや、斬新っていうか、

とろりとした黄身が絶妙なソースと化し、

醤油カツにまた絶妙に絡み合う。

この醤油カツ丼、好きだわー(笑)

 

味見屋さん、

ほんと老若男女問わず地元の方に愛されてるお店、

そんな感じがする。

ごちそうさまでした。

 

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食後はそのまま西鯖江駅へ戻る。

610形が再び現れますように、と祈るのみ。

はて、どうなるやら。

 

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先に越前武生行きの普通が到着。

ほどなくして鯖江方面に目をやれば、

610形電車が現れた。

 

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ホームにいた年配の女性が、

高いステップに悪戦苦闘しつつ、

「この電車、乗る時はいいけど、降りる時が怖いのよね」

と笑う。

確かにそうだ。

酔っ払って乗ったら車両から転落するかもしれない(笑)

 

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運賃が同じなので、

一応田原町までのきっぷを買ってはいたが、

素直に市役所前で下車して610形を見送った。

 

このまま田原町まで行っちゃうと、

名残惜しくて今度は武生まで行きたくなりそうだったもので、

ぐっとがまん。

 

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610形電車を見送って、福井駅に向かいつつ、

何となく頭をよぎったのが祖父の言葉である。

 

九州の離れ小島に住んでいて、

めったに会えない存在だった祖父は、

僕が島を去る際

「生きてる爺ちゃんに会えるのはこれが最後だと思え」

と必ず言っていた。

僕が小学生の頃から。

 

高校生くらいまでは「何言ってんだよ」ってな感じだったけど、

自分も年を重ねるだけ祖父も年を重ねて行き、

年々その言葉の意味が分かっていった。

遠ざかる島を眺めながら

「あー、本当に最後かもな」

なんていつもぼんやり思っていた。

 

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孫が祖父にできることなんて限られている。

それは元気な姿を見せてやることだ。

死期が近づいてからは何度か島に足を運んだもので、

「あの時あーしてやりゃ良かったよな」

そんな感覚は少なくとも祖父に対しては、ない。

 

電車と人間を一緒にするな、

なんて怒られそうだけど、

僕が愛すべき610形電車に対しできることなんて「乗る」ことだけだ。

 

今回、無理矢理でも610形電車に乗れて良かったと思う。

この先乗る機会に恵まれなかったとしても、

多分、後悔はしないだろう。

 

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