その日の朝、目覚めた時点で家の周囲は深い霧に包まれていた。
天気予報を眺めると、晴れマークが一応出ているが、
部屋の中は暗く、そして寒かった。
この日は特に予定もなかったもので、
調べ物でもしようと図書館に引きこもることにした。
福井市内には幾つか図書館があるのだが、
一番のお気に入りは下馬と呼ばれる地区にある県立図書館だ。
フリーのWi-Fiが使え、パソコンを持ち込んでの調べ物にもうってつけ。
福井に来た時「こんな素晴らしい図書館があるのか」と感動した思いは、
未だに変わらない。
駐車場も広大で、駅前から無料の送迎バスも出ている。
しかしながら弱点があるとすれば、
全面ガラス張りのモダンなデザインが災いしてか、
恐ろしく寒い、ということか。
1時間もじっとしていると、震えてくる。
さらに椅子も固めで、長時間いると身体中が痛くなる。
もう一箇所、よくお世話になっているのが、
駅前のアオッサの中にある市立桜木図書館だ。
立地的にも非常に便利な場所にある。
しかしながらここにはフリーのWi-Fiがなく、
規模も小さいので調べたい資料そのものが少ない。
そこで冬の間、お世話になることが多いのが、
田原町にある市立図書館だ。
建物は古いのだけど、Wi-Fiも完備で、
資料室の中でパソコンを叩けるのもありがたい。
今日は市立図書館に引きこもるべと、
パソコンをカバンに入れて家を出た。
我が家からは遠いけれど、
えち鉄や福鉄を利用すればテツ分の補給にもなる。
福井駅に着くと青空が姿を見せていた。
駅前の恐竜くんたちもつかの間の晴れ間を楽しんでいる、
そんな気もしなくもない。
青空を眺めていると、図書館に引きこもるのは何だかもったいない、
そんな気がしてきた。
そこで気づいたのが、この日は2月初めの金曜日であるということだ。
福井鉄道には毎週金曜日が乗り放題になるフライデーフリーパスなるきっぷがある。
一ヶ月間有効で1500円。
単純に武生を2往復すれば元はとれる。
この後の金曜日に武生に行ける時間があるのか定かではないが、
ハピリンの窓口に行ってこのきっぷを買った。
そのタイミングで、ヒゲ線に越前武生行きの770形電車が現れた。
よし、この電車で北府駅に行って、
その後の610形の様子を見てこよう。
福鉄ではやはり新型のフクラムが快適ではあるが、
従来の770形には前後の景色が見やすいという利点がある。
フクラムは左右の景色を楽しむには最適であるが、
前後の景色となると広めの運転席が災いしてあまりよろしくない。
そんなもので770形や880形でも最前部なり最後部の席さえ確保できれば、
フクラムとは違った景色を堪能できる。
この日は、福井駅出発時点では最前部、
市役所前から先は最後部となる席に着席。
しかしながらすれ違うのがフクラムばかりとなると、
やはりちょっと悲しい(笑)
770形の電車は越前市に入り、
「次は北府」なるアナウンスが流れた。
北府駅は無人駅であるもので、
僕は最前部へと移動し、運転士ごしに前を眺めていた。
先週、来た時点で、610形は2両編成のうち1両が解体されていた。
もしかすれば今はもう1両も解体中かもしれない。
それか、既に足回りだけ、そんな姿と化しているのかもしれない。
770形電車は北府駅に隣接する車両工場の脇を過ぎる。
その先に、610形は、、、、
610形は跡形すらなく消え去っていた。
見事なまでに、何ひとつない。
線路上に台車の一つでも残っていないか、
目をこらしてみたが、何もない。
そうか、もう君はいないのか、、、
現実を受け止めることがなかなかできず、
しばしボーッとしてしまう。
僕は落ち込んだ気分を引きずったまま、
従来の目的地である福井市立図書館に向かおうと、
田原町行きの急行に乗った。
福鉄の市役所前駅の名称が変わる、
そんなことを前回に書いたけど、
福井新聞にもようやくそのことに触れており、
記事によると「3月24日のダイヤ改正に合わせて」とある。
福井新聞にも、福鉄のサイトにもそのダイヤ改正についての詳細は触れられていないのだけど、
先日紹介した日経新聞の記事では
ダイヤ改正は18年3月に予定しており、平日の昼間は1時間あたり急行2本、各駅停車2本の運行を急行1本、各停2本に減らす。もともと運行本数の少ない土日を含めダイヤに余裕が生まれるため貸し切り電車を運行する。《日経新聞・12月8日付朝刊より抜粋》
とあるから、削減されるのはやはりこの越前武生〜田原町の急行であるのだろう。
しかしながら、この日の、この時間に限っては、
北府駅を出た時点で10人以上のお客さんの姿があった。
さらに、越前武生〜田原町の急行同士は神明駅で行き違いするのだけど、
窓越しに眺めてみた感じでは越前武生行きにもそこそこのお客さんの姿が見えた。
本当に削減しちゃうのかな、、、、(涙)
11時をまわって、徐々に腹が減ってきた。
図書館で一日過ごしても全然腹など減らないが、
電車に乗るとすぐ腹が減る。
610形が姿を消した、そんな失意の真っ只中であれど、
腹は減る。
それにしてもいい天気だなあと思う。
春先なら弁当でも買って外で食べたいところであるが、
この雪景色の中とあってはそんな気力もわかない。
何処か眺めのいいところで昼飯でも食べたいな、
なんてことを思う。
ただ、福井のレストランなり食堂で、
「眺めがいい」店を僕はほとんど知らない。
足羽山のカフェあたりに行けば良さげではあるが、
そこまでの気力はない。
福井西武のレストラン街なら8階だし、眺めはいいのかな。
僕はスマホで「福井 眺めのいいレストラン」みたいな感じで、
検索をかけてみた。
すると、予想外のところが出てきた。
商工会議所前で下車。
目指すはそのまま「商工会議所」。
商工会議所というところに縁のない生活をしているもので、
福井の商工会議所ビルにも当然、初めて足を踏み入れたことになる。
随分立派な建物だなあ、それが第一印象で、
スーツ姿の方の往来も多い。
こんなところにレストランがあるのかな、と思いつつ、
エレベーターに乗り込み8階へ。
エレベーターを降りるとすぐに「SORAOTO」なるレストランがあり、
扉も開いていたが、脇の札を見ると「CLOSE」になっていた。
この時点で11時25分だったもので、しばし待つ。
すると、女性の店員さんが現れて、
「30分からの営業ですが、どうぞ」と店内に案内してくれた。
入店するなり、思わず「おお」と声が出そうになった。
雪に覆われた、福井の市街地が一望できる。
窓に面したカウンターに着席。
店内の雰囲気から、「高そう」そんな印象があったけど、
メニューを眺めると丼や麺類などはいたって食堂価格である。
ただ、この景色の中、カツ丼という気分にもなれず、
奮発して「ビーフシチューセット」(1200円)を奮発してみた。
失意を癒やすには食しかない。
セルフのコーヒーを頂きつつ、
福井の町並みを眺めているだけで、
何となくシアワセな気分になってくる。
北陸線の線路上を特急列車が駆け抜けていく様子もみえる。
しばし待っているとスープとサラダが運ばれてきた。
ちょっとリッチな気分に(汗)
間を置いてビーフシチューとライス。
一口いただく。
うま(笑)
考えてみればこれまでビーフシチューなる食べ物にも、
やはり縁のない生活をしてきたのだった。
眺めのよいレストランで食せば美味さも倍増であったりする。
この「SORAOTO」さん、基本的に営業は平日の昼間だけらしく、
夜や週末は予約制とのこと。
平日にウロウロできる機会があればまた是非お邪魔してみたい。
食後にもコーヒーを頂いて店を後にした。
ごちそうさまでした。
今度こそ図書館へ向かうことにする。
平日に商工会議所前から田原町へ行くには
1時間あたり普通が2本、急行が2本と4本あれど、
普通がヒゲ線に入っている間に急行が追い抜くダイヤなもので、
やってきた田原町行きの普通を見送って、
後続の田原町行きの急行に乗った。
やはりこの急行にも10人以上のお客さんがいたか。
今のダイヤになってからしばらく、
この急行には610形と最近ずっと北府駅で寝ている800形という車両がペアで運行される機会が多く、
610形狙いの僕は頑張って鯖江や武生に行く理由を作っていたのだけど、
悲しくなるほどにお客さんが少なかったのは事実である。
しかしながらここのところ、確実に増えてきている、そんな気はする。
3月末のダイヤ改正、果たしてどうなることやら。
市立図書館に着いたのは12時半すぎ。
随分寄り道をしちゃったな、そんな気もしなくはない。
市立図書館の資料室には暖かな日差しが差しこみ、
満たされた腹もあいまってすぐに眠気が襲ってきた。
図書館からの帰路は福井駅を経由する普通にぎりぎり乗り損ね、
後続の急行に乗って市役所前で下車。
今日は5本もの電車に乗ったのに、
一度もフクラムに当たらなかったなあ、と思う。
ま、フクラムが来ていれば図書館に行くという本来の目的が達成できなかった可能性もある。
これで良かったのだ、と自分に言い聞かす。
日中は暖かかったが、日が暮れると寒い。
今日は焼酎の湯割りより、熱燗が飲みたいな。
そんな気分になった僕は、ゲンキーに寄って日本酒を買い求め、
家路についた。