北陸徘徊人(元)

富山、福井、石川を中心にゆるーい旅を満喫中

毛谷黒龍神社

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「俺、もう耐えられないよ」

帰宅するなり夫はそんなことを言う。

こんな時、わたしはどんな声をかけてあげればいいのだろう。

何言ってんのよ、頑張ってよ、

そんな言葉だと軽率な気がする。

 

夫の転勤で福井に来て3ヶ月が過ぎた頃だ。

日に日に夫の元気がなくなっていくのは目に見えて分かっていた。

とにもかくにも支店長とあわないらしい。

 

ある日の夕方、

私の携帯がなった。

夫からだった。

 

出ても何も言わない。

でも何かこすれる音がする。

続けてノックの音。

「失礼します」夫の声。

「失礼します、じゃねんだよボケェ!」

 

電話越しにもその声は強烈に聞こえてきた。

もう完全なパワハラだ。

しばらく聴いていたがうんざりして私は電話を切った。

 

夫はまだ20代後半だ。

転職すればいいと思う。

しかしそれは考えていないようだった。

あわないのは支店長だけで、

会社に対する愛着心はあるらしい。

 

分かるようで分からない。

あんな暴言を毎日吐かれるなんて考えただけでゾッとする。

 

けど、

わたしは妻として、何ができるンだろう。

 

 

 

専業主婦であるわたしの行動範囲なんてたかがしれている。

スーパー、ドラッグストア、図書館。

いずれも自転車で10分以内だ。

この街には友達もいないし

知り合いもいない。

 

何とか夫を会社に送り出し、

ひと通りの家事を済ませ、

買い物にでも行こうと自転車に乗ろうとした時だ。

郵便局の配達員が白人女性に話しかけられて

とまどっているのが見えた。

 

その白人女性は私のもとへやって来た。

「スミマセン」

たどたどしい日本語でそう言うと、

わたしにメモを見せた。

「keyakurotasu-jinja」

 

わたしも一応スマホくらいは持ってるし、

そのまま「ケヤクロタツ」と打ち込んでみた。

毛谷黒龍神社と書くようだ。

さらに福井県屈指のパワースポットであるらしい。

 

「ご一緒します」私が言うと、

彼女はにっこり笑った。

 

何とかカタコトの英語で会話した感じでは、

彼女はスゥエーデンから来て、

武生で和紙づくりの勉強をしているらしい

ことだけは分かった。

 

10分もたたずに

「毛谷黒龍神社」に着いた。

さほど大きな神社という訳でもない。

境内では雅楽が流れており、

それだけで神妙な気分にさせられた。

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死んだおばあちゃんがよく言っていた。

「神社はね、

 感謝をするところで願い事をするところじゃないのよ」

 

わたしはその言葉を信じていた。

神様だって願い事ばかりされるより、

感謝された方が嬉しいだろうし気分もいいだろう。

 

でも、たまにはなにかお願いしたくなる時だって、ある。

 

この神社には「願かけ石」なるものがあった。

願い事をかけて、石を3度打ってください、とある。

「夫を助けてやってください」

そう願って石を打ったら、

思ったより甲高い音が響いて驚いた。

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遠い異国から来た女性が、

この神社に導いてくれたのだ、

これも何かの縁だと思った。

その日から私は毎日のようにこの神社に通うことなった。

 

2週間ほど経った頃か、

帰宅した夫の機嫌がずいぶんといい。

支店長の異動でも決まったのかと思ったら、

新入社員が配属されたとのこと。

 

「思いっきり体育会系でさ、妙に可愛いンだよな」

などと嬉しそうに語る。

いまどきの若者で支店長も面食らっているらしい。

夫が会社での出来事をこんな楽しそうに語るなんて、

初めてのような気がした。

 

きちんと毎日お詣りすれば、

きっと良いことが起こる、

わたしは信じている。