せっかくの週末だというのに、
相変わらず夫が起きてくる気配がない。
どこかに連れて行って欲しいと思う反面、
ゆっくり休ませてあげたい気持ちもなくはない。
しかし夫の転勤で福井に来て数ヶ月。
わたしは福井のことを何も知らないし、
たまにはお出かけだってしてみたい。
恐竜博物館も行ったことがない。
大仏様にも会ってみたいし、
三方五湖にも行ってみたい。
しかし夫はもはや「起きる」という行為を
忘れているかのように見えた。
歯ぎしりをしながら、
マヌケな面で爆睡している。
もう10時を回っている。
いつか連れて行ってやるから、
その「いつか」は存在しないことをようやく悟った。
何となく思い出したのが、
福井の駅前から出ている1両編成が2両編成の電車だ。
あの電車に乗って、どこかに行ってみよう。
わたしは携帯電話も置いて部屋を出た。
駅に行くと「一日フリーきっぷ」というのが売っていた。
週末限定らしい。
「フリー」って響きが嬉しかった。
とりあえず止まっていた電車に乗ることにした。
ホームのベンチには恐竜が座っていた。
1両編成の電車はほとんどの席が埋まった状態で出発した。
私のちょうど向かいあたりに、
30代にも40代にも50代にも見える男性が
目を閉じて座っている。
髪はボサボサでサンダルばき。
荷物は何も持っていない。
目を閉じているにも関わらず、
その表情は苦悶に満ちているように見えた。
私は背筋が寒くなるのを感じ、
目を逸らせた。
あわら湯のまちの駅を出ると、
遠くに観覧車のようなものが見えた。
福井にも遊園地があるのかなと思う。
ほどなく電車が駅に着いたもので、
私はそこで降りてみた。
水居という名の小さな無人駅だった。
何か絶叫マシンのひとつくらいあるかもしれない。
大声で泣いたり笑ったりすれば気分も晴れるだろう。
そんなものがなくても小さな動物園くらいはあるかもしれない。
私は観覧車に向けて歩き始めた。
10月も終わりに近いというのに、
ずいぶんと暑く感じる。
そして歩けども歩けども、
観覧車は近づいてこない。
一台の軽トラックが私の横で止まった。
人の良さそうなおばあさんが、
「うちまで持って帰る間に溶けちゃうから食べて」
と棒アイスをくれた。
棒アイスなんて食べたの、
いつ以来だろと思う。
結局30分近くかかって、遊園地に着いた。
「ワンダーランド」という看板がある。
しかし外から見た感じ、
動いている遊具は何もない。
それどころかずいぶんと錆びついているような気がした。
そして、入り口には緑色のロープがかけられていた。
何やってるンだろ、私。
何だかおかしくなってきて、
一人声を出して笑ってしまう。
どうせ誰もいないし誰も現れない。
ただただ私は笑い続けた。