夫が職場の後輩であるタカシ君を
よく連れてくるようになった。
23歳、富山県出身、体育会系の新入社員。
わたしたち夫婦より、6歳年下。
そんな彼は
わたしにとって貴重な情報源であったりする。
まだ福井に来て間もないのに、
営業で飛び回っていることもあるのだろう、
安いランチやお気に入りのスポットなど、
やたらめったら詳しい。
夫は
「ほんまに仕事してんのか?」
なんて笑っていたけれど。
そんなタカシ君が
「ランチの穴場」としてオススメするもので、
わたしは福井県庁へと向かった。
福井に暮らし始めてずいぶんたつが、
わたしは県庁の場所を知らなかった。
いや、
正確には福井駅のすぐ近くにある城跡にそびえる
巨大な建物が県庁だとは考えもしなかった。
そもそも一般市民(県民?)が県庁を訪れるってどんな時なのか、
考えても考えてもわたしには思いつかなかない。
県庁の正面玄関を入ってすぐ左手に食堂はあった。
何だか本当に昔ながらの「社員食堂」といった風情だ。
入り口で食券を買う。
とりあえずホワイトボードに書いてあった「B定食」を注文。
500円ポッキリ。
サクッと揚がったチキンカツとたっぷり添えられたキャベツ、
ナスの田楽、スパゲッティ、ご飯、味噌汁、お新香。
夫にロクなおかずも入れない弁当を作っていることに、
後ろめたさを感じるほどのボリュームと味だ。
わたしはすっかり満足して県庁をあとにした。
県庁のまわりを歩いていると、
「養浩館庭園」という看板を見つけたので進んでみる。
入園料は210円。
足を踏み入れると、
そこには街なかとは思えないほど
時間が止まった空間が広がっていた。
秋の日差しを浴びながら、
畳の上で庭園を眺める。
池にはたくさんの鯉が泳いでいる。
縁側ではボランティアガイドのおじさんが、
文庫本を開いている。
この場所で本を読めるなんて、
それはこの上なく贅沢な時間であるような気がした。
福井の街のどまんなかにいることを忘れてしまう。
平日ということもあってか、
訪れる人も少ない。
金沢から来たという夫婦を話をした。
「まさか福井にこんないいところがあるなんてね」
奥さんの一言に吹き出しそうになる。
ほんと、そのとおりだ。
「あんまり大きな声じゃ言えんけど、兼六園よりよっぽどいいなあ」
旦那さんは立派な一眼レフで写真を撮り続けている。
ほんと、そのとおりだ。
週末にはライトアップもされるらしい。
夫と共に来てみたいと思い、
帰宅した夫に声をかけようとしたが、
帰るなり「ツムツム」に夢中になっている夫が
とても庭園に興味を示すとは思えなかった。
わたしは、以前タカシ君が来た時
そっと教えてもらったLINEのIDを入力してみた。
夫はツムツムに夢中になっている。
わたしは缶ビールを一口飲んで、
簡潔にメールを書いて送信する。
返事は数分後に来た。
「週末、楽しみにしてます」
私はビールをもう一口飲む。
夫はツムツムに夢中になっている。