日曜日のことだ。
わたしは夫と福井市美術館でやっている
「奇才・ダリ版画展」を見に行く予定でいた。
朝の10時すぎ、
寝ぼけ眼でスマホをいじりながらコーヒーを飲んでいた夫が、
「おいおい、見るのに1000円もかかるぞ」
などと言う。
「そんなもんでしょ」と言い返したが、
「あのさー、1000円あったらちょっとしたランチが食えるぞ」
と訳の分からないことを言う。
「俺、21世紀みたくタダだと思ってたンだ」
勘違いも甚だしい。
確かに金沢21世紀美術館は入館だけならタダであるが、
展示ゾーンは当然有料だ。
ただ実は無料ゾーンだけでも意外と楽しめる。
切り取られた「空」が作品になってる
「ブループラネットスカイ」や、
「スイミングプール」も上から見るだけならタダだ。
以前二人で行った時も無料ゾーンだけで満喫していたのだった。
で、すったもんだがあって結局夫はパチンコ屋へ逃亡した。
結局私はイライラしたまま午後を過ごした。
そして夫は惨敗して帰ってきた。
後のことは書きたくない。
そんな訳で今日が出直し。
実はダリが見たいなんて言っておきながら、
わたしの中には「変なヒゲのおじさん」くらいのイメージしかない。
作品も「やわらかい時計」くらいだ。
私は福井市美術館へ自転車で出かけた。
天気は快晴、予報によると気温は18度まであがるらしい。
(結局22度まで上がったそうだ)
さて、正直に言うと、
展示室に入ってしばらくは「あれ?」という感じであった。
版画展なのに、さっと描いたイラストにしか見えない。
ドロドロした印象のものを勝手に想像していた私は
いささか拍子抜けしていた。
夫とこなくて良かった、そんなことを思いつつ、
淡々と作品を眺めていた。
ところが「宇宙の征服」あたりから一気に作品のトーンが変わった。
「これこれ、こういうのが見たかったのよ!」
「シュルレアリスムの思い出」の区画など3往復くらいしてしまった。
出品点数は彫刻も含め221点。
結論から言えば充分すぎるくらいに満喫できた。
何より驚いたのは命日が1989年1月23日であったことか。
意外と、と言えば失礼かもしれないが、
自分が生まれた時にはまだ存命だったのだ。
日本でいえば平成になったばかり。
伝説のアイドル、
高橋良明くんが亡くなった日でもある。
せっかく美術館まで足を伸ばしたついでに
県立図書館にも行ってみる。
ながらく工事をしていた「福井県ふるさと文学館」が
先月オープンしたとのこと。
わたしはこれほどまでに立派な図書館を
他の地で未だに見たことないが、
ふるさと文学館が併設されてなおパワーアップしたような気がする。
福井ゆかりの作家や福井が登場する文学作品などを紹介しているのだが、
ただただこう思った。
「福井に生まれた作家は幸せだ」と。
こんな立派な施設で、
郷土の誇りとして紹介されるのだ。
絶対に幸せだと思う。
他県生まれの作家さんも「福井」を描いた小説を書けば、
ここで死後も大切に紹介してくれるかもしれない(笑)
圧巻は開館特別企画展「津村節子と吉村昭・果て無き旅〜夫婦作家の軌跡〜」だ。
わたしはお二人の名前を存じてはいたが
夫婦であることは知らなかった。
津村節子さんが福井出身であるらしい。
すさまじいボリュームの生原稿や、
愛用の万年筆、カバン、などがお二人の紹介と共に展示されている。
書斎を再現したようなコーナーもある。
そして、いったい何通あるのだろう、
「往復書簡」
ラブレター、なのかな。
メールがあたりまえになっちゃって、
よくよく考えたらわたしは夫に「手紙」など
一度も書いたことがない。
「手紙」すら、もう何年も書いていないような気がする。
ここなら、夫も付き合ってくれるかもしれない。
この往復書簡を見て何か感じてくれるかもしれない。
何よりこれだけのものが無料で見学できるのだ。
行かないとは言わせない。