今日こそリベンジだ。
僕はそんな思いで福井駅を通り過ぎ、
福井鉄道の市役所前駅へ向かった。
前回武生に行った時に乗れなかった、
610形の急行列車に乗ってみたかった。
ここで簡単に復習しておくと、
全長20キロちょいのローカル私鉄であるが、
車両も多種多様で何とも楽しい鉄道である。
だが、多種多様の車両が走るとはいえ、
大半はいわゆる「路面電車」形の車両である。
各駅のホームもそれに準じた造りとなっている。
そんな中、異彩を放つのが「鉄道形」の車両で、
現役なのはわずか2編成となっている。
ほとんど乗る機会がないのだが、
この鉄道形の、さらに急行運転を堪能したい、
それが最近のささやかな願いであった。
そして日頃から観察していると、
どうもこの鉄道形の車両は、
そんなものでこの急行列車を狙って武生に向かったのが
2週間ほど前の話である。
結論から言えば乗れなかった。
今度こそ、そんな思いで市役所前駅に着いた。
ところがやって来たのは見慣れた路面電車タイプの車両だった。
「・・・」
僕は福井鉄道を溺愛しているが、
どうもそれは片思いにすぎないのだよな、
なんてことを最近思う。
その時に乗りたい車両が現れることなんてほぼない。
僕など本来福井鉄道に乗る必要性など一切ないのだが、
わざわざ武生や鯖江で飯を食べる、
そんな理由を作って乗っているにすぎない。
それなのに、
何なのだ、この仕打ちは……(涙)
で、案の定、神明駅ですれ違った車両は
鉄道型の610形だった。
運用的には2編成あれば良い。
要するにこの線内急行なら2分の1の確率で鉄道型に乗れる計算になる。
それにもかかわらず、乗れない。
暗澹な気分になりつつ、電車は越前武生駅に着いた。
ちなみにこの時点で11時27分である。
福井鉄道の電車は平日に関しては1時間に4本(普通2本・平日2本)の運行となっている。
越前武生駅の時刻表でいえば、毎時
14分発が急行の鷲塚針原行き(フェニックス田原町ライン)
25分発が普通の田原町行き、
44分発が急行の田原町行き、
55分発が普通の田原町行き、といった具合である。
(平日ダイヤ、2016年7月現在)
単純に考えれば、
12時44分発の田原町行きが610形になる可能性は非常に高いと思えた。
こうなれば意地でも乗りたい。
さて、今回武生まで足を運んだのは、
やはり「めし」を食べにきたのだった。
鉄道に限らず車でもウロウロしていると、
いくつか気になるお店というのは出てくるもので、
しかしながらそこを通る際は飯時でなかったりして、
なかなか行く機会に恵まれない、
なんていうお店は多々あったりする。
僕は車で嶺北と嶺南を行き来する時も、
8号線ではなく旧8号線を使うことが多い。
8号線はバイパスで、景色的にも何ら面白いものはないが、
街なかを通る旧8号線は様々な店が立ち並び、
次はあそこへ寄ってみよう、次はあそこへ、
なんてことをいろいろ考えることが出来る。
そして、旧8号線は基本的に福井鉄道に沿って走っているのだが、
かつての武生の市街地だけは、
かなり大きく離れた場所になる。
今回行こうと思っているお店、国八食堂さんは
まさに武生の旧8号線沿いにあるのだ。
果たして行って、食事して12時44分までに帰ってこれるだろうか。
グーグル・マップで検索すると、
距離にして2.2キロ、徒歩で27分と出た。
あれこれ考えても仕方ないので、
ただひたすら歩く。
以前からこのお店が気になっていたのは
「めし・国八」とだけ書かれた
潔いほどシンプルな看板である。
飛騨の高山、国道41号線沿いにも
「国八」なる何を食べてもウマイ店がある。
で、同じ名前の店ということで、
前を通るたびに以前から気になっていた存在だった。
それにしても、
以前菊人形を見に来たこともあるもので、
ある程度距離感は掴んでいたつもりであったが、
とにかく旧8号線が遠い(涙)
お店に到着した頃にはヘロヘロになっていた。
店に入るとショーケースに並んだたくさんのおかずと、
手書きのメニューが目に入る。
だが席にはメニューがない。
非常に愛想のいい奥さんが現れて、
「メニューは入り口にしかないンです」
と笑う。
最初は店名を冠した「国八定食」にするつもりだったけど、
隣席の夫人が食べてたサンマがあまりにも美味そうだったもので、
「焼き魚定食」を注文した。
店内は、町の食堂というよりは、
ドライブイン、といった方がピンとくる
サラリーマンよりはトラックの運転手が似合うような、
そんな雰囲気に満ちていた。
店内はわりと広く、4人がけの座卓とテーブルが並んでいる。
そこで1人、あるいは2人客が「めし」を食べている。
1人去れば家族連れが入ってくる。
何とも活気がある。
目の前の男女2人はビールを飲んでいる。
福井だと昼間から飲んでるかたをほとんど見かけないが、
武生や敦賀の店では
昼間から飲んでる方に出くわすことが多いような気がする(笑)
健全な店という証である。
僕も汗ばんだし飲みたかったが、
残念ながら今日は飲めない(涙)
ほどなくして焼魚定食が供された。
焼きたてのサンマ、
熱々の味噌汁、マカロニサラダに、わかめと胡瓜とタコの酢の物つき。
これで税込み600円。
焼きたての魚を食べることが出来る食堂って、
実は案外少ないような気がする。
あったとしてもそれなりのお値段がしたりする。
こんな定食が良心的な値段で食せるなんて、
何とも羨ましい限りである。
これだけでも武生まで来た甲斐がある。
そして、まわりを見渡せば、
小鉢がたくさん並んだ国八定食にしろ、
生姜焼き定食にしろ(共に800円)
どれもこれもボリューム満点で、
実に美味そうな感じであった。
今度は車で来よう(笑)
こちらのお店、
旦那さんは厨房の中で姿は見えないのだが、
奥さんの「いらっしゃいませ~」に併せて、
旦那さんの「いらっしゃいませ~」の声が必ず聞こえてくる。
そして気づいたのは、
精算をすますと、
共に「おおきに」と言っていたことである。
敦賀や若狭だと「おおきに」は日常的に耳にするけど、
嶺北だとほとんど聞かないので何だか新鮮、
かつ心地いい。
ごちそうさまでした。
この時点で12時10分とか、
そんな時間である。
恐らく鉄道型の運用となるはずの12時44分発の急行まで、
残された時間は少ない。
足早に駅へ向かう。
そして、ようやく610形と対面することができた。
しかしながら喜んでいるのは僕くらいで、
お年寄りなどは巨大なステップにげんなりした表情を浮かべている。
ふだん福井鉄道に乗っていると、
それはやはり「路面電車」の旅って感じなのだが、
610形だとローカル私鉄に乗っている、
そんな気分になってくる。
いつもより視点が高いぶん、
見慣れた車窓も何だが新鮮だ。
車両が大きいからか、
路面区間ではいつも以上に慎重な運転をしている、
そんな印象があった。
この車両での移動があまりにも新鮮な体験だったもので、
市役所前にはあっという間に着いてしまった。
せっかくだし田原町まで乗って引き返そうかとまで考えたが、
さすがにそれはやめておく。
乗れたことに感謝。
これ以上求めてはいけない。
市役所前から福井駅まで、
駅前大通りをぶらぶら歩く。
大通りの商店街側にはかつてバスのりばが、
ビジネス街側にはかつてバスの降車場が並んでいた。
で、よくよく考えたら、
このバスの降車場は今、途中の停留所になっている訳である。
そんなもので時刻表を眺めてみたら、、、
とても福井の時刻表とは思えず、
何だか吹き出してしまった。