北陸徘徊人(元)

富山、福井、石川を中心にゆるーい旅を満喫中

男2人、奈良の大仏を見に行く 〜紀勢本線の憂鬱〜

相棒が「盆はどうしているのか」と言う。

連日の暑さにすっかり参っていた僕は

「寝てる」と言った。

「何処か行かないか」相棒は言った。

「暑いし人も多いし、嫌だ」

僕は言った。

 

「実はだな、奈良の大仏さまを見たいのだ」

相棒は言った。

「なぜ奈良の大仏さまなのだ」

僕は言った。

「なぜもへったくれも見たいのだ」

相棒は言った。

 

奈良の大仏さまか、、、

奈良には何度か行っているが、

大仏さまとなると小学校の修学旅行以来ご無沙汰している。

要するに前回行ったのは30年前だ。

少し、心惹かれるものがあった。

 

勝手な印象で申し訳ないが、

奈良なら京都ほど混んでいないのでは、

そんな思いもあった。

 

 

 

そんな訳で1泊2日で青春18きっぷを使い、

奈良の大仏さまを見に行くことになった。

ただ、単に福井から奈良を往復するというのは

何とも面白みにかける。

 

「おぬしは延々と電車に乗っていても大丈夫か」

僕は問うた。

「寝てりゃいいンだろ」

相棒は言った。

「寝てりゃいい」

僕は言った。

 

f:id:fukuitabi:20160816110609j:plain

 

早朝4時半の福井駅前。

コンビニから出てきた相棒が「酒臭いぞ」と笑う。

「コーフンして眠れず、つい深酒してしまった」

僕は正直に言った。

今回は久々に青春18きっぷをフル活用した旅を考えている。

 

f:id:fukuitabi:20160816110635j:plain

 

4時48分発敦賀行きの快速電車は、

相変わらずというかいつもながらというか、

適度に席が埋まる乗車率だった。

鯖江あたりからは立ち客も現れる。

 

僕は普段から出かける時はこの快速電車を愛用しているが、

とにかく非常に使い勝手がいい。

敦賀で新快速に乗り継げば、

土休日ダイヤなら大阪には7時57分着と、

8時前に到達できる。

 

さらにこの新快速は米原で大垣発の普通電車と接続しているのだが、

この大垣始発の普通電車は東京発の臨時夜行快速、

ムーンライトながら」の接続を受けている。

要するに東京の方が「ムーンライトながら」を使って行ける西日本各地は、

福井からだって行けてしまうということだ。

 

福井発が4時48分なんて夜行列車の末端部を切り取ったようなダイヤだけど、

この快速電車のおかげで、

福井からJRを使って行ける場所はかなり広範囲に広がる。

いつまでも残しておいてほしい電車である。

 

敦賀で新快速の5時33分発播州赤穂行きに乗り継ぐ。

2両編成の快速の乗客が4両編成の新快速に乗り継ぐので、

車内には余裕がある。

 

f:id:fukuitabi:20160816110706j:plain

 

ちなみに目的地が京都や大阪なら、

30分後の6時02分に出る湖西線経由の快速電車に乗っても、

土休日ダイヤだと大阪には8時06分に到達できる。

いかに湖西線が近道かというのがよく分かる。

 

お盆の最中の早朝にもかかわらず、

滋賀県内の各駅からもそこそこ乗客の姿はあり、

長浜からは「混んでいる」と表現してもいい状態になった。

6時27分、米原着。

前に8両を増結して12両編成の堂々たる姿に。

 

立っていた乗客だけでなく、

着席していた乗客も半数程度が席をたち、

一瞬車内はガランとなったが、

大垣からの普通電車を受けると車内は再び適度な混み具合になった。

 

さて、今回の旅の目的地は奈良の大仏様である。

そして今宵の宿は三重県の津に確保してある。

 

大仏様を訪ねるのは翌日、津から奈良へ向かおうと考えている。

では今回どのように津を目指すかと言えば、

紀伊半島の一周である。

 

当初は福井ー奈良の往復では面白くない、

そんな理由から、

徳島に行ってフェリーで和歌山、そして奈良なんてどうだ、

そんな案を提案したら、

「せっかくの18きっぷなのにフェリー代が高い」と却下された。

同様の理由で高山線経由で帰ってくる、

なんてルートも却下された。

 

そんなもので考えたのが紀伊半島の一周である。

これならJRだけで移動ができるし、

普段はなかなかお目にかかれない太平洋の絶景を堪能しつつ、

一日電車に乗っているだけで良い。

「それはいい。10年くらい前に白浜なら行ったことがある」

相棒は言った。

 

f:id:fukuitabi:20160816110737j:plain

f:id:fukuitabi:20160816110800j:plain

 

大阪から紀州路快速の和歌山行きに乗り継ぐ。

環状線のホームは恐ろしく賑わっていたが、

先発するUSJ方面の電車に大多数の乗客は吸い込まれていき、

着席は不可能と諦めていたのに

何なく席にありつけたのが意外だった。

 

f:id:fukuitabi:20160816110823j:plain

 

紀州路快速阪和線を南下し続ける。

相棒は宣言通りというか、

福井を出てからほぼ寝ている。

 

起きていたのは北陸トンネルを出た瞬間、

さらに新疋田あたりでは寝ていたと思うし、

紀州路快速においても天王寺を過ぎたころには

もはや夢の中といった感じである。

 

いつでも寝れるというのは若い証拠だと思う。

ある意味羨ましくなったりもする。

 

そんな相棒が起きたのは山中渓駅に着いた時だった。

「和歌山って田舎だな」

相棒が言った。

「失礼なことを言うな。ここはぎりぎり大阪府だ」

僕は言った。

 

f:id:fukuitabi:20160816110854j:plain

 

紀州路快速は和歌山の平野部へと下っていく。

「和歌山にさ、猫が駅長やってる駅があるンだよ。その駅行ってさ、和歌山ラーメンを食べて、奈良に行って、津に行くのも面白いかもしれない」

僕は言った。

「いいよ、予定通りで」

相棒は言った。

 

 

 

紀州路快速和歌山駅着は9時38分。

福井から5時間ほどかけてようやく和歌山である。

この後紀勢線をぐるりと順調に乗り継いでいっても、

津駅の到着は20時13分。

 

紀伊半島を一周しようなどと言い出したのは自分自身であるが、

実際に時刻表を開いてみると、

すっかりびびってしまったのも事実である。

 

紀伊半島はこれまでも車で行ったり、

添乗員の仕事で行ったり、

無論鉄道でも行っているのだが、

鉄道に関しては特急列車でしか行ったことがなかった。

 

白浜あたりまでは特急「くろしお」も1時間毎くらいに走っているし、

普通列車もそれなりの本数は走っているだろう、

とのんきに考えていたのだが、

実際に時刻表をめくれば

そこそこ列車が走っているのは白浜のはるか手前の御坊までで、

その先紀伊田辺までになると半減、

紀伊田辺以南など「閑散ダイヤ」といってもいい状況だった。

 

1本でも乗り継ぎに失敗すると、

今宵中には「津」に到達できないのだ。

果たして本当に紀伊半島に足を踏み入れて大丈夫なのだろうか。

 

僕の心配をよそに相棒はあくびをしている。

まだ寝足りない様子である。

 

f:id:fukuitabi:20160816110958j:plain

 

和歌山で御坊行きの普通列車に乗り継ぐ。

僕は不気味な色に塗られた117系を想像していたが、

使用されていたのは関空快速にも使われる、

ずいぶんと上等な車両だった。

車内モニターもついているし、新車の香りも残っている。

 

f:id:fukuitabi:20160816111023j:plain

 

そして、ビールでも買うべと売店を探したが、

この張り紙は「あんまりだ」と思った(笑)

 

f:id:fukuitabi:20160816111107j:plain

f:id:fukuitabi:20160816111153j:plain

 

快適な新型車両に揺られること約1時間10分、

御坊着は10時54分。

 

乗り継いだのは2両編成の115系紀伊田辺行き。

昔ながらのボックスシートが車内に並ぶ。

「何か急に車両の格が落ちたな」と相棒は不満気である。

 

f:id:fukuitabi:20160816111252j:plain

 

何となく海沿いを走っている印象のある紀勢本線だけど、

実際に海沿いを走るのは印南以南で、

それまでは時折見えるという程度だ。

しかし、時折見えるからこそ海の青さが目に染みるし、

印象にも残る。

 

f:id:fukuitabi:20160816111351j:plain

 

絶景なんてところは日本中何処にでもあるけれど、

延々と絶景の中を走っていると、

飽きてくるし絶景でも何でもなくなってくる。

そういった点においても紀勢本線の車窓は旅人を飽きさせない。

 

f:id:fukuitabi:20160816111415j:plain

 

この2両編成の電車に揺られること40分少々、

電車は紀伊田辺駅に着いた。

ウィキペディアによると駅がある田辺市は人口約7万4000人弱、

近畿では最大の面積をほこる「市」であるとのこと。

 

f:id:fukuitabi:20160816111443j:plain

 

次は13時11分発の新宮行きまで時間があるもので、

ここで昼食にしておきたい。

幾つか気になるお店があったもので、

適当にピックアップしてみて相棒に選んでもらったのが、

「めはり本舗 三軒茶屋」なるお店である。

 

地図を見れば駅から多少距離があるもので、

ぼちぼち歩く。

紀伊田辺の街は、南国特有の明るさに満ちていた。

歩いている人は決して多くはないのに、

ズラリと立ち並ぶ飲み屋なんかを見ていると、

夜は夜でかなり賑わっているのかもしれない。

 

f:id:fukuitabi:20160816111506j:plain

f:id:fukuitabi:20160816111558j:plain

 

こんな街で一泊するのも楽しいだろうな、

なんてことも思うが、それはまた次回の楽しみにとっておこう。

歩くこと10分少々で「めはり本舗 三軒茶屋」さんに到着。

店の前には「21016年8月に移転します」とある。

 

f:id:fukuitabi:20160816111531j:plain

 

今まさに2016年8月であるが、

まだ移転していなかったようで、何よりである。

この炎天下の中歩いてきて、

「移転しました」では洒落にもならない。

 

ざるそばが100円増しで1.5倍になるとのことで、

ざるそば大盛りとめはり寿司を注文した。

めはり寿司とは熊野地方や吉野地方において食される郷土料理で、

簡単にいえば「高菜で巻いたおにぎり」であるが、

以前に駅弁で食べた時、「こりゃいいや」なんて思った記憶はある。

 

ただ、本来の名の由来は

「目をみはるほどの大きさ」らしいが、

駅番は食べやすいように小さなサイズになっているし、

こちらのお店で出てきたのも決して「目をみはる」ほどの大きさではなかった。

元々はどんな大きさだったのだろうか。

 

f:id:fukuitabi:20160816111636j:plain

 

「めはり本舗 三軒茶屋」さんのめはり寿司は半分にカットされた状態で出てきた。

高菜漬けなんて最強のご飯の友だと思っているから、

僕にしてみればうまくて当然である。

今回の相棒は漬物が嫌いなはずなのに、

「あ、ウマイや」なんて言っている。

冷静に考えれば不思議な光景だった。

 

続けて出てきた「そば」には驚いた。

とにかく黒い。

そしてかめば何とも弾力がある。

つゆも甘め、かつ濃いのだが、

この黒いそばと実によくあう。

 

f:id:fukuitabi:20160816111703j:plain

 

「福井のそばとはずいぶん違うもんだなー」というのが

僕と相棒双方共通の意見で、

特盛りにしても良かったな、

ともやはり双方共通の意見。

 

さて、この後は新宮まで約3時間乗りっぱなしになる。

新宮でも4分の乗り継ぎで多気まで3時間半のりっぱなし。

多気で2分の乗り継ぎで津到着は20時13分。

ざっと7時間以上の行程である。

 

長期戦に供えて駅前のスーパーで食料品を買い込み、

紀伊田辺駅に行った。

後はひたすら海を眺めながら居眠りをしてもよし、

菓子をつまみつつ

ビールを飲んでもよし、である。

準備は万端だ。

 

そして跨線橋を渡り、

ホームに着いたら何かの間違いかと思った。

こんな閑散路線を走っているのが、

もっとも旅に不向きなロングシート105系なる車両だったのだ。

 

f:id:fukuitabi:20160816111730j:plain

 

この車両に3時間も乗りっぱなしなのか、

そう考えただけで何だか憂鬱になってきた。