土曜の夜、
出先から帰る際に見かけた
足羽川沿いの桜が思いの外満開で、
「明日は花見でも行くか」と相方に言ってみたら、
「それもいいね」なんて答えがあり、
花見に行くつもり満々で迎えた日曜の朝は、
雨音で目が覚めた。
起きてきた相方が、
「花見に行けないならイオンに行きたい」
などと言う。
「・・・」
3月24日、石川県小松市に「イオンモール新小松」がオープンした。
相方は出来た当初から「行きたい」と言っていたが、
「混んでるし、大変だよ」と、
その週も先週も言い逃れしてきたところがある。
イオンに限らずだけど、
相方が「行きたい」というような場所は
どこもかしこも混んでいて、
もともと混雑が苦手な僕はそのたびに
「お友達とどうぞ」と逃げ回っていたのだが、
あまり露骨に断り続けて家を追い出されても弱るもので、
今回は付き合うことにして小松に向かった。
イオンモール新小松には思いもよらず早く着いて、
まだ8時半だった。
イオンの1階は8時から、
2、3階は9時から、
専門店街は9時半から、
小松食回廊なるレストラン街は10時から営業とのこと。
一応、行くのを拒んでいた僕にも気になる店があった。
それは最近テレビでもよくお見かけする
「いきなり!ステーキ」なるステーキ店であり、
そこで昼飯でも食べれば僕は満足、
てな具合に考えていたのだけど、
10時の開店と同時に伺ってみれば
ありえんくらいの長蛇の列になっていた。
結局、フードコートで天丼食べてイオンを後にした。
その後、御朱印集めにハマっている相方に付き合って
さらに風呂でも入ろうと小松の山間にある「せせらぎの郷」へ。
福井の温泉の入浴料は他と比較しても安いと
常々思ってはいるが、
石川県はもっと安く入浴できる場所がわんさとあり、
こちらの入浴料など370円だった。
これで露天風呂まであるのだから何ともありがたい。
ただ、敷地内でバーベキューか何かやってたみたいで、
露天風呂には何とも食欲をそそる香りが立ち込めていた。
休憩室で相方が出て来るのを待ちがてら、
僕は地図を開いた。
この「せせらぎの郷」は
粟津温泉からさらに山間に入った場所に位置する。
以前から気になっていた「鉄道」があるのだった。
時刻表にも記載されていないこの鉄道は「冬季運休」
さらに運行日は水曜日と土日祝日のみ。
調べてみると冬季運休は明けており、
この日もまさに運行日である。
風呂から出てきた相方に
「ちょっと寄りたいところがある」と僕は言った。
「どうぞご自由に」と相方は言った。
せせらぎの郷を後にして粟津駅近くにある
「いしかわ子ども交流センター小松館」に向かった。
「いしかわ子ども交流センター小松館」は
粟津公園の一画にあり桜並木が見事だった。
花見がてら園内をぐるりと廻る。
すると目の前に線路が現れた。
木々の中を伸びる線路に沿って、
起点となる駅へ向かう。
途中にはちゃんと「踏切」もあった。
「なかよし鉄道」と名付けられたこの線路には、
1977年に廃線となった尾小屋鉄道の車両が、
現役で走っているという。
プラットホームの先には車庫らしき建物があるが、
シャッターは閉じられていた。
ホームと児童館の間には広場があり、
多くの家族連れで賑わっている。
児童館の中もまた子どもたちの賑やかな声が響いている。
一画に、Nゲージのレイアウトもあった。
何とも懐かしい「スーパー特急・かがやき」の姿も見える。
「かがやき」といえば今や北陸新幹線の花形だけど、
僕の場合は485系の印象が強い。
いや待てよ、ここは小松だから「きらめき」かな、
なんてことも考えつつ、
操作ボタンを押してみたが、
模型の列車はピクリとも動かなかった。
館内に「まもなくなかよし鉄道の運転がはじまります」
そんな放送が流れた。
遊んでいた子どもたちが一斉に外に飛び出していく。
15時25分。
開いた車庫の中からエンジン音とともに、
「キハ1」なる車両が姿を現した。
調べてみると1937年に製造されたものらしいが、
整備が行き届いているようで車両もピカピカだ。
そしてこの車両を見つめる子どもたちの笑顔が、
何とも嬉しい。
1両の車両はまたたく間に子どもたちで埋まった。
空いていれば乗ろうと思ったが、
まあ、子ども優先であろうと遠慮する。
線路沿いを先回りして終端部へ向かう。
やがて森の中にディーゼル音が響いてきてキハ1が姿をみせる。
エンジン音が思いの外静かだったことに驚く。
きちんと整備されていることの証だろう。
キハ1は静かに停車。
運転席横に陣取っていた子どもたちが、
カメラを構えた怪しいおじさん(僕)に手を振っている。
僕も手を振って応じる。
キハ1は方向を変え、
再びたどってきた線路を戻り始めた。
きっと歩くのと大差ないスピードであろう、
そうたかをくくって駅に先回りしようと思っていたが、
キハ1は想像以上のスピードで線路上を走り去っていき、
駅に戻った頃には子どもたちを下ろし、
車庫の中へと入っていった。
こんな鉄道が福井にもあればなあ、
なんて思ったけれど、
これはたまたま尾小屋鉄道が非電化だったからこそ
できた復活だったんだろうな、とも思う。
福井も多くの路線が廃止されたが、
大半は電化されていた。
すなわち引退した車両も電車なわけで、
そんな車両を動かそうと思えば
架線や電気設備も必要になってくる訳で、
容易な話しではない。
先日、神岡鉄道でも廃止から10年ぶりに復活運行された、
そんなニュースがあったけど、
非電化だったからこそ可能だった、といえる。
それでもスタッフの方々の熱意や
日々の整備が時刻表にも載らない小さな鉄道を支えている訳で、
素直に一人の鉄道好きな人間として感謝したいし、
これからも元気に走り続けてほしい、と切に思う。
「乗りたかったんじゃないの?」
相方は笑ったが、
今回は元気に走っている車両を見ることができただけで満足だ。
僕らは8号線をちんたら走って福井に帰った。
ちなみに、
イオンモール新小松で僕らが買ったものといえば、
98円のキャベツと278円の5袋入りチキンラーメン、
198円のサラダ油、そのほかボールペン2本だけだった。
別に小松まで行かなくても近所のゲンキーで事足りる、とも言える。
酒はイオンの方が安いけど、
僕にはゲンキーの週末5倍ポイントの方が大きい。
この2週間、連日「イオンに行きたい」口撃にさらされてきたのだ。
しばらくそれもなくなるだろうと内心ホッとしている。