相棒が「また武生行ってラーメン食べたい」などと言う。
この男、以前はラーメンと言えば、
福井市内の濃いめの味を提供する店ばかり行っていたが、
どうやら味覚に変化でもあったのかもしれぬし、
単に年をとっただけかもしれない(笑)
ちょうど僕も武生に行きたいと考えていたもので、
「おう、行くべ」と答えたのだけど、
相棒は「なら車で行こう」なんてことを言う。
家から武生の市街地まで、車で行けば30分ちょいというところか。
当然、それが一般的な考え方であろう。
しかしながら車で行くなんて面白くもへったくれもないし、
僕としてはどうしても福鉄で行きたい。
「武生のラーメンが何で美味いかと言えば、電車に乗ってさらに歩いてと、時間をかけて行くから美味さが増すのだ。車で行くとこんなもんかになってしまう」
僕はこじつけのようなことを言った。
「そんなもんかなあ」と相棒は言った。
「同じ缶ビールでも外界で飲むより山で飲めば3倍くらい美味い」
「俺、酒飲まんから分からん」
相棒は愛想もへったくれもない表情で言った。
秋晴れの空が広がった体育の日の朝、
ハピリンのウェルカムセンターで福井鉄道のフリーきっぷを買うと、
ヒゲ線に電車が入ってくるのが見えた。
この日は普通に運行するようだ。
この時福井駅のホームに入ってきたのは9時39分発の越前武生行き。
「これに乗って市役所前で降りたらキーボに乗れる。けど、こっちの方が先に着くけどどうする?」
僕が問うと相棒は「当然キーボで行く」と言う。
電車は10人弱ほどの客を乗せて出発。
市役所前に着くと、
妙な位置に「市役所前」の行き先表示を掲げた車両が止まっていた。
調べてみるとこの日は自衛隊のパレードで、一部区間が運休になるのだった。
さらにこの車両の行き先表示がかわり「急行・越前武生」となった。
「どうやら次の急行はキーボではなさそうだ」
「あ、そう」
特に興味も示さぬまま、相棒はスマホで何かのゲームをやっていた。
そんなものでそのまま普通で越前武生に向かったのだけど、
ベル前やら浅水やら神明やら西鯖江からもどんどんお客さんが乗ってきて、
車内は大混雑状態になってきた。
「みんな菊人形にでも行くのかな」と相棒。
「多分、違う」と僕。
この日、北府駅では「福鉄感謝祭」なるイベントが開催されており、
それが今回の僕の目的だった。
けれど、僕はそんな賑わうようなイベントではないと思っていた。
たまに北府駅でやっている「愛する会」さんのイベントの延長、
そんな捉え方をしていたのだ。
ところが車内の客層を見ると、半数は家族連れなのだが、
半数は僕と同好の士と思われた。
福鉄感謝祭とはそんな集客力のあるイベントなのであろうか、、、、
北府駅でどっと下車。
この駅のホームが賑わっているなんて初めて見る光景だ。
そして駅前のイベント会場はとんでもない数の人で大賑わいだった。
鉄道ファンの最大の目的は、
200形電車の展示であったようで、
立派なカメラを構えた方々がひっきりなしにシャッターを押していた。
福鉄の方もサービス心旺盛で、行き先表示を変えてくれたりする。
そのたびに再びシャッター音が響く。
僕が今回のイベントで一番楽しみにしていたのは車両工場の見学だった。
もしかしたら青いフクラムに再会できるかもしれぬ、
そんな思いで受け付けに行ってみると、
定員は15人で、1回目の受け付けは終了したという。
2回目の受け付けは1時間半後とのこと。
「・・・」
会場を回っていると、金券の配布が行われていた。
福井鉄道のフリーきっぷを提示すると、
当日会場で使える500円分の金券がもらえるそうな。
550円のフリーきっぷで500円の金券とは何と太っ腹な企画であろう(笑)
そんなもので僕らは焼き鳥やら牛の串焼きを頂いた。
ビールがなかったのが残念(涙)
会場では路線バスや高速バスの展示も行われていた。
この日嬉しかったのは、
いつもは柵越しに眺めている610形電車に近づけたことか。
一緒に写真を撮っている子たちも多いし、
何とかうまく保存できないものかなあ、と思う。
適度に腹も減ってきたので、昼食にする。
前回は「若竹食堂」さんで中華そばを食したもので、
今回は別のお店で中華そばを食べることにした。
目指すは北府駅からもほど近い「いせや」さん。
店内に入るとお客さんの世話をしているような女性がいたもので、
「2人なんですけど」と声を掛けてみたら、
「私、客なんです」と笑われてしまう。
そのうちキリッとした感じの奥さんが出てきたので、
中華そばを2つ注文した。
「いせや」さんは一見「そば屋」のように見えるけど、
丼ものから定食まで何でもあるから「食堂」といったほうが正しいのかな。
武生のお店らしく、ちゃんとボルガライスもある。
ほどなく「中華そば」が配された。
半熟卵にもやし、存在感のあるチャーシューなど、
他店と比較すると具材が豪華な感じ。
麺は縮れており、あっさりめのスープがよく絡む。
シンプルかつ、うまい。
味の表現はうまく出来ないのでこれ以上は書かない(笑)
僕も相棒もスープを飲み干すまで5分ほどだったのではなかろうか。
お値段1杯580円だったかな。ごちそうさまでした。
福鉄感謝祭の会場に戻ると、
工場見学の受け付けには既に列ができていた。
数えてみるとどうもぎりぎり14人目、15人目といったところか。
うーむ、ぎりぎりセーフといったところか。
ところが整理券の配布が始まると、どうも1人子供もいたようで、
僕が15人目、相棒が16人目となった。
「待ってるし行ってくりゃいい」と相棒は言う。
ただ、僕らの前には5人組の高校生がいたのだけど、
僕らの後ろにいた少年もどうやら彼らの仲間らしい。
少年は悲しげな表情を浮かべていた。
純粋な少年の瞳に負けて整理券を彼に譲った。
北府駅に戻ると、ちょうど市役所前行きの急行が入ってきた。
子連れの若いお母さんが
「フクラムじゃないボロいの来ちゃった、残念ね」
とひどいことを言っている(笑)
僕らも口には出さないだけで、考えていることは同様であったりする。
前回同様、僕らは一旦越前武生駅に行き、
オレンジのフクラムに乗って福井に帰った。
フクラムの中で、会場で配布されていた
「ふくいのりのりマップ」を開いてみた。
このマップの素晴らしい点は、
各自治体が運行するコミュニティバスのルートも記されていることで、
「あ、こんなところにも路線があるのか」と、
眺めているだけで新たな発見ができたりする。
そんでもって、この地図、本来なら200円で販売されているものなのだ。
ありがたいとしか言葉が出ない。
見入っている間に市役所前に到着。
ハピリンでは「ノリトク」という特典を利用し、
フリーきっぷを提示して100円の金券をもらう。
この日は550円のフリーきっぷで計600円の金券をもらい、
さらに200円のマップも頂いたことになる。
「金券やらいろいろもらえてありがたいなあ」と相棒は言った。
「来週もどっか行くか」と言ってみたら、
「しばらく電車はいいや」と素っ気ない答えが返ってきた。