北陸徘徊人(元)

富山、福井、石川を中心にゆるーい旅を満喫中

再開した鉄路の終点へ 〜越美北線(九頭竜線)九頭竜湖駅〜

福井に来てからずっと、越美北線九頭竜湖駅まで行ってみたい、

とは思っていた。

 

けど、なかなか実行できないまま4年ほど過ぎてしまった。

理由は簡単であまりにも本数が少ないこと。

単純に往復するだけなら何とかなるが、九頭竜湖駅で下車すれば、次の列車は4時間後である。

 

ただ、今現在、せっかく福井市内に住んでいるにもかかわらず、

このまま乗らないままでいるのはもったいないよな、

と、年が開けてからは一応考えていた。

行く以上は九頭竜湖駅付近も徘徊してみたい。

では4時間をどう過ごすか、あれこれ考える日が続いた。

 

しかしながら現実的に行けなくなった。

何てことはなく、先日の大雪である。

越美北線は2月6日から運休してしまった。

その後、13日に九頭竜湖駅のある大野市九頭竜(和泉地区)は積雪3メートルを記録。

20日越前大野までの運行は再開したが、福井新聞の記事には

越前大野-九頭竜湖間は線路上に積雪が残っており、再開の見通しが立っていない」

と書かれていた。

 

これはしばらく長引くかもなあ、、、と思っていたが、

2月23日に無事に全線で運行を再開したとのこと。

よし、今だ、越美北線九頭竜湖駅まで行こう。

 

 

 

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福井駅の自動券売機で九頭竜湖駅までの乗車券を購入。

何となく運賃表を眺めていたら、1140円という運賃は、

地方交通線と幹線の違いもあれど、敦賀市新疋田までと同額であることに気づく。

そう考えるとめちゃくちゃ遠い場所、って訳でもないような気がしてくる。

 

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8時50分ごろにホームに上がると、

越美北線の乗り場には1両編成のディーゼルカーがポツリと停車していた。

これは大野を7時38分に出て8時32分に福井に着いた列車で、

この車両は車庫へと回送される。

 

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9時08分発の九頭竜湖行きは福井駅の武生寄りの留置線で待機しており、

金沢行きのサンダーバード3号の入線と似たようなタイミングでホームに入ってきた。

2両編成で、前より1両が九頭竜湖行き、後ろ寄り1両は越前大野止まりとなる。

出発の数分前まで車内は閑散としていたが、

直前になって10人近い若者のグループが乗り込んできた。

定刻に出発。

 

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列車は越前花堂駅北陸線と分かれ、越美北線へと入っていく。

国道8号線の下をくぐり抜けると住宅街も途切れ、雪原の中を淡々と走る。

 

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若者のグループは一乗谷で下車。

この先は足羽川に沿って走り続ける。

平成16年の福井豪雨では越美北線も大きな被害を受けた場所だ。

 

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10時05分、列車は定刻に越前大野駅に到着した。

ホームにはそれなりの数のお客さんの姿があったが、

いずれもここで切り離され、折り返しとなる福井行きを待っていたようだ。

10時15分、福井行きはほとんどの座席が埋まるほどの盛況ぶりで出発。

 

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では九頭竜湖行きはといえば、僕を含めて乗客は5人である。

1人は釣り竿を持っており、2人はカメラを持っていたから同好の士であろう、

もう1人は「何となくふらっと乗ってみた」というオジサンである。

要するに生活の足として利用している方はゼロと言えた。

10時17分、越前大野駅を出発。

 

この先は、若い頃に一度乗りつぶしのために乗車したことはあるのだが、

夕方に福井駅から往復しただけなので、ほとんど景色の記憶がない。

 

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越前田野、越前富田、下唯野、柿ケ島、、

列車は丹念に止まっていくが、どの駅にも待ち人の姿はない。

 

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柿ケ島トンネルを抜けて勝原へ。

昭和35年越美北線が開業してからしばらく終点だった駅だが、ここにも待ち人はいない。

この先は昭和47年に開業した区間となる。

 

勝原駅を出るとすぐに白谷トンネルへ、スノーシェッドを介して全長5251メートルの荒島トンネルへと入っていく。

このあたりの国道158号線九頭竜川に寄り添いながら急勾配とカーブが連続するが、

越美北線はまっすぐトンネルで貫いていく。

 

荒島トンネルを抜けると越前下山駅

ちょっと以前の旅行記なんかを拝見していると、近くにある日帰り入浴施設「平成の湯」の送迎バスが列車の到着に合わせ待機していた、という記述を見るが、

待合室の貼り紙には「お電話ください」となっていた。

 

国道158号線とほぼ直角に交差して下山トンネルへ、トンネルを抜けると九頭竜スキー場が見えてくる。

国道158号線を車で走ると勝原からこのあたりまで随分遠い印象があるが、

越美北線だと「あっと言う間」という気がする。

 

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しかしながらトンネルを抜けた瞬間に列車は減速。

この列車には保線作業員らしき方も乗り込んでおり、前方を注視している。

天気もいいから雪崩の危険性でもあるのかもしれない。

減速したまま朝日トンネルへ。

終点の九頭竜湖駅には約6分遅れ、10時55分に到着した。

折り返しの列車を待っていたのは2人ほどだったか。

 

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駅の裏手にまわり、数分遅れで出発していった福井行きを見送ると、周辺はただただ静寂に包まれた。

 

次の列車は14時35分となる。

集落の中をぶらぶら徘徊。

さすがに雪の量は半端ない。

 

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九頭竜川を渡り、スキー場にも足を伸ばしてみた。

駅から直接歩けば、15分もかからないかもしれない。

広大なゲレンデはガランとしており、「滑りたい」そんな衝動にかられる。

若い頃なら一式レンタルしてでも滑っただろうけど、

残念ながら若くはないし単なるアルコール依存症気味の中年であることは自覚している。

大野市内まで救急車で搬送される光景が目に浮かび、

ぐっとこらえてスキー場を後にした。

 

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ぼちぼち腹が減ってきたもので、国道沿いを歩く。

福井市内と違ってちゃんと歩道の除雪が行き届いているのがありがたい。

すぐに「カツとじ定食」の文字が見え、心ひかれたが「定休日」となっていた。

 

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さらに駅に向かって進むと「食事・喫茶INOUE」という看板が見えた。

営業している様子であったものでお邪魔する。

 

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奥さんに「和風カツ丼(おろし)」を注文してしばし待つ。

何組が作業着の方や地元の方らしき方々が入ってくる。

奥さんが「いらっしゃいませ、あ、おかえりー」と声を掛ける。

 

しばし待つとカツ丼が配された。

当然カツも揚げたてで美味かったのだけど、

一番驚いたのは「お米が美味しい!」ってことか。

お米の好みなんて人それぞれだろうけど、

これだけ自分の好みにマッチした炊き加減のお米なんてそうそう出会わないような気がする。

 

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舞茸の入ったアツアツの味噌汁も嬉しい。

ごちそうさまでした。

 

九頭竜湖駅に戻ると近くにSLが展示している、

そんなことを知る。

 

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「へえ、知らなんだ」と思い、駅の裏手に回ってみた。

するとSLが展示されているのは見えたが、雪が多すぎて近づけない(涙)

 

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ちょいと歩き疲れたこともあり、しばらく道の駅でコーヒーを飲みながらボーッとすることにした。

 

僕はザックの中から1枚の紙を取り出す。

昭和47年12月16日の福井新聞をコピーしたものだ。

1面に大きく、「越美北線 勝原ー九頭竜湖間が開通 50年来の悲願実現」とある。

原本もコピーだったので読み辛いのだけど、少し書き出してみる。

 

国鉄越美北線の延長区間大野市勝原ー和泉村朝日・九頭竜湖駅間10.1キロが15日開通。1日3往復の営業運転に入った。赤字廃線問題で一時、工事がストップするなど難航したが、沿線住民の五十年来の悲願がようやくかなえられたわけで、この日は九頭竜湖駅から造花で飾られた祝賀臨時列車(3両編成)が走り、続いて和泉村朝日中で盛大な開通式と祝賀式が行われた。

延長区間の建設工事は40年11月に総工費31億円で着工。わずか10.1キロのうち80%以上を荒島トンネルなど4つのトンネルで結ぶ難工事だったが、7年ねんぶりにこの(?)完成。ようやくこの日の開通式にこぎつけた。

13日から降り続いた雪も、この朝はからりと晴れ上がり、絶好の開通日日和。約50センチの積雪で白一色の村内は、万国旗と紅白のちょうちんで美しく飾りつけられ、まず地元小中学生らの旗行列が九頭竜湖駅へ到着。午前11時に来賓と村民ら約1500人が待つ同駅に祝賀列車が滑り込んで発車式が行われた。(以下略)

 

僕が生まれる、数年前のこと。当時は国道158号線も今ほど整備はされていなかっただろう。

越美北線の開通を待ちわびた、和泉村の方々の喜びようが、手にとるように分かる記事だ。駅前に1500人もの人が集まったというのだから凄まじい光景だったろう。

 

それから半世紀弱。

 

静まり返った駅を見ていると、

もはや地元の人の大半は、越美北線のことなどあてにもしていないのかもしれないな、

そんな気になってくる。

 

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外に出ると「すみません」と声を掛けられた。

振り返ると、九頭竜湖駅の駅員さん、というか委託の職員さんである。

「列車をご利用ですか」と問われ、「はい」と答えたら、

「14時の列車は来ません。運休になりました」などと言う。

 

え、ええっ!!!

 

職員さんはこう続けた。

「駅の中にも何人かいらっしゃいますので、タクシーでお帰りいただくことになります。夕方の列車もどうなるか分かりません」

 

駅舎に入ると、朝と同じ面々が勢揃いであったりする。

釣り人、ふらっと乗ったオジサン、同好の士が2人、そして僕。

職員さんは「大野から先が運休になりまして、今、代行のタクシーがこっちへ向かっています」と言う。

「そのタクシーがこちらに到着しだいのご案内となりますが、大変申し訳ないのですが、15時08分の大野発の列車には間に合わないかと思います」

そこでにわかにざわついた。

「15時08分に乗れないってことは17時10分ってことか。大野で2時間か」

同好の士の1人が言う。

「そうなるでしょうね、、、」

 

この時点で僕は復路の乗車券をまだ買っていなかったし、

大野からバスで帰ってもいいのかな、なんてことも考えた。

しかしながら別に慌てて帰る必要もない。

大野で2時間あれば、渋い銭湯に行くことだってできる。

不謹慎な言い方かもしれないが、何だかワクワクしてきた(笑)

 

「それにしても、普段はお客さんなんていないンですけどねえ。今日に限ってどうしたことやら」職員さんは笑い、みんなも笑った。

 

この職員さんから福井駅までの乗車券を購入。

駅前でみんなで日向ぼっこをしながらタクシーの到着を待った。

しばらくしてジャンボタクシーが到着。

降りてきたのはご婦人が1人のみ。

 

ゆきと同じ面子はタクシーに乗り込み、列車の発車時刻を待つ。

すると、もうひとり、若者が乗り込んできた。

 

ドライバーさんは「下山の駅だけ寄らせてもらいます、後は大野駅まで直行します」と言う。

勝原駅などはどういった対応であったのかは不明(笑)

 

そんでもって結論から言えば、越前大野15時08分発の列車はちゃんとタクシーの到着を待ってくれており、僕らは無事に福井に帰ることができた。

 

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この日の感想を率直に言えば、

越前大野九頭竜湖間が営業を続けているのは「奇跡」に近い、ということか。

 

一昔前なら赤字ローカル線が廃止を免れる理由として

「冬期間の代替道路の未整備」が挙げられていたが、

今やどんなに豪雪であれ国道の方が先に開通し、越美北線は長期に渡り運休。

地元の方だって「冬だからこそ」運転したくないだろうに、

鉄道があてにならないとなればハンドルを握るしかない。

完全に負のスパイラルに陥っているように見える。

 

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もう一度、昭和47年12月16日の福井新聞の3面の記事を転載。

 

おらが村を汽車が走るぞ 小旗を打ち振り 感激に浸る村人たち

アーチ、紅白のちょうちん、万国旗……村を挙げての祝賀ムードの中を、この朝まず、地元朝日小の鼓笛隊が練り歩いて、喜びの日がやって来たことを告げた。晴れた(?)の朝、暗いうちから起き出して待っていた村民らは「開通にふさわしい日和になったぞ」と年寄りも子供も、手に手に小旗を持って駅へ向かった。

九頭竜湖駅は正面にアーチが立てられ、駅舎もホームも万国旗や紅白の幕で盛装。続々詰めかける村民の群れが次第にふくれ上がり、やがて朝日小児童らの旗行列が「汽笛一声大野市を、はやわが汽車は離れたり 荒島岳に雪残る……」と鉄道唱歌の替え歌を合唱しながら駅に到着した。

ボウァーンー! 澄み切った冬空に汽笛がこだまして「祝開通」の文字と造花で飾った祝賀列車が九頭竜湖駅へ滑り込んできた。赤とオレンジ色のツートンカラーの車体が山並みの白雪に映えて美しい。ホームと駅周辺を埋め尽くした約1500人の人波が日の丸の旗を打ち振り、どっとどよめきが起こる。

ホームでは晴れ着姿のお嬢さんから一番列車の運転士と車掌に花束の贈呈。贈るお嬢さん、受け取る中小路運転士の表情も晴れ晴れ明るい。続いてくす玉が割られて五色の紙吹雪と風船がホームに舞い散り、祝賀列車がスタートした。

村内の小中学生や幼稚園児らが小旗を振って乗り込んだ。祝賀列車がホームを滑り出すと、ホームと駅周辺を埋めた人たちの間から一瞬「バンザイ」がわき起こった。ワーッと大声を挙げて列車の後を追う人。ちぎれるように小旗を振る人。“半世紀の悲願”“村の夜明け”いろんな開通の思いでみんな感激に浸っていた。

 

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ハピリンではスケートリンクの撤去作業が行われていた。

本物の氷を使っているとあって、作業もなかなか大変そうだ。

そんな様子を眺めながら、缶ビールをぐびり。

景色はまだまだ冬だけど、気温だけは確実に春が近いことを感じさせてくれる。

いい気分になりながら、僕は家路についた。