北陸徘徊人(元)

富山、福井、石川を中心にゆるーい旅を満喫中

JR北陸本線・大土呂駅 〜文珠山縦走・醤油カツ丼〜 北鯖江駅

福井駅を8時5分に出発した敦賀行きの普通列車は、

8時12分に大土呂駅に着いた。

制服姿の若者がごっそり席をたち、僕も続く。

周りを見渡せば教習所とのどかな田園風景が広がるが、

近くに高校があるようだ。

 

高校生の大半は駅を出るなり

福井寄りにある学校へと向かっていったが、

待合室には4,5人居残ってわあわあ言っている。

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甥っ子たちと年が変わらぬ子たちを見て

「おいおい、学校大丈夫かよ」と

ついつい要らぬ心配をしてしまうが、

向こうにしてみれば

「いい年したオッサンが平日の朝から駅でボーッとしている」に

見えるであろうから余計なことはいわぬ。

 

ところで「大土呂(おおどろ)」とは一風変わった地名である。

昭和54年に刊行された「各駅停車全国歴史散歩・福井県」を開けば、

以下のように記述があった。

大土呂。その名のとおり、このあたりはかつて泥の海だった。足羽川、江端川、浅水川と三方を囲まれた一面の湿地帯だったという。

今は「泥の海」であった名残を感じさせるものは何ひとつない。

 

僕は駅前にある案内板をしばし眺め、

歩き始めた。

目指すは文珠山。

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文珠山は日本山岳会のサイトによると

次のように紹介されている。

文殊山 (365m)は越前五山の一つで、そのほぼ中央に位置し、越の大徳と呼ばれた泰澄大師ゆかりの山です。花や紅葉が素晴らしく、四季を通じて福井県民 に親しまれています。ハイキングコースはここで紹介する二上コース以外にも福井市鯖江市からたくさんあって、それぞれに違った趣きの登山が楽しめます。

http://jac.or.jp/oyako/f10/c3040.html

もともと山が好きで北陸に住み着いたということもあるが、

今なお時折山に登りたくなる時がある。

 

酒浸りの自堕落な生活を送る分際で

「3000メーター級の山を目指す」なんてことは口が避けても言わないが、

「300メーター級」なら何とかなりそうな気がした。

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駅から二十分も歩けば二上登山口に着いた。

平日の朝にも関わらず、

そこそこ広い駐車場には

そこそこクルマが停まっている。

登山靴の紐を結び直している間にも、

何台かクルマがやってきた。

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林の中をゆるやかに登っていく。

後ろを歩くオジサンの熊よけの鈴の音色が心地よい。

気温が低いこともあってか、

汗が吹き出すなんてこともない。

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何で僕は山に登り始めたンだろう、

ふとそんなことを思った。

僕の両親は「山登り」とは無縁の人間だ。 

何かを始めるには何らかのきっかけがある。

 まして僕は中学生の頃までは鉄道に夢中になっていた。

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しばし考え、いきついたのは高校時代の体育の先生である。

 

今もそうであるが、

僕は恐ろしく運動音痴な人間だ。

走ったり、泳いだりなんてことは人並みにはできるが、

球技なんかはまるっきしダメだ。

 

まずボールを投げることができない。

受けることもできない。

ドッジボールにソフトボール、

小学生の頃から体育の時間が憂鬱で仕方なかった。

 

ところが高校時代に出会った体育の先生は、

まるっきし運動ができない僕にこう言ったのだ。

 

「おまえは球技もできないし、背も低いが体力だけはある。テントの中でもスペースをとらなくてすむ。きっと山登りに向いている。どうだ、山岳同好会に入らないか」

 

冷静に考えればひどい一言であるが、

「向いている」なんて言われたのはうまれて初めての経験だった。

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で、この体育の先生であるが

髭面にメガネ、がっしりした体格はいかにも「ヤマヤ」という感じであった。

趣味はもちろん山登りである。

本当は山岳部を作りたかったのだが、

誰一人部員が集まらない。

 

そんなもので学校からは「部」として認めてもらえず、

「同好会」としてスタートさせることにした。

そこでこの先生は必死で部員集めをしたといえる。

結果として1年生ばかり10人ほど集まった。

 

普段の活動など、

校庭の片隅でテントをはる練習をしたり、

背負子に電話帳をくくりつけて階段を登り降りしたりと、

まわりから見れば奇人変人の集まりであったようだが、

僕は楽しかった。

 

こっそりバイトをして山道具も揃えた。

夏休みには北アルプスにも行った。

ところがこの先生、翌年には転勤でいなくなり、

顧問のいなくなった山岳同好会はわずか1年で自動的に消滅した。

 

ただ、あの先生の一言がなければ

「山に登ろう」なんてことは考えなかったであろうし、

その後山小屋で働くなんてこともなかっただろう。

 

先生と一緒に酒が飲みたいな、

そんなことを考えた。

そして笑って言ってやるのだ。

 

「先生のおかげで人生踏み外しました」と。

 でもこうも付け加えよう。

「おかげさまで波乱万丈だけど楽しい人生を過ごしてます」と。

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山頂にたどり着くと福井の街が一望できた。

「今日は白山が見えねーなー。本当はあのあたりなんだけど」

常連さんらしき方が残念がっている。

残念といえば残念だが、

また登ればいいだけの話だ、と思うことにした。

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山頂までは多くの登山者で賑わっていたが、

奥の院へと続く道には誰一人現れない。

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行く手に大きな岩が現れた。

脇の看板には次のように記されている。

胎内くぐり

この大きな岩の門をくぐると智恵が授かり、安産のご利益もあるといわれています。しかし、邪心ある者がくぐると岩が閉じてしまうと伝わります。

邪心あるもの、の一言に背筋が震えたが

無事に通過して奥の院にたどり着く。

無事の到着を感謝して合掌。

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さて、この先である。

先の日本山岳会のサイトでアクセスを確認すると次のようにある。

登山口は福井市鯖江市から10ヵ所あります。一般に自家用車利用ですが、JR利用の方は、大土呂駅から半田コース、北鯖江駅から橋立コースの登山口が近くおススメ。

ところが様々な地図を確認しても、

半田コースと橋立コースを書いているものがほとんどない。

実際、僕は半田コースから登るつもりであったが、

結果的に二上コースから登ってきたというのが正直なところだ。

 

奥の院には「四方谷コース」の看板はあったが、

やはり「橋立」の文字は見当たらない。

文珠山は北陸線北陸道とほぼ並行するように連なっているのだが、

四方谷へ下れば駅へのアクセスが悪くなる。

 

進んでいいものか、引き返すか、

しばし悩んだが進んで見ることにした。

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それにしても誰一人合わない。

聞こえるのは風が木々を揺らす音のみ。

道は落ち葉で埋まり、滑りやすい。

にわかに額や背に汗が滲み始める。

予想外にアップダウンがある。

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気を抜いたらつるりと滑ってずっこけた。

「・・・」

 

眼下に鯖江の街が広がってはいるのだが、

なかなかそれが近づかない。

たかだか360メートルの山だと思ってなめていた自分に気づく。

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さらに下りの途中でルートを見誤った。

 

ルートを示すテープがあったから

間違いではなかったのかもしれぬが、

とてもひょいひょいと歩けるような道ではなかった。

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ここで足を踏み外せば、

恐らく誰に見つけられることもなく骨と化すだろうと思った。

無事に山を抜けたところにも何の標識もない。

何とも妙な場所に出てしまった。

 後で確認すれば正規の登山口は別のところにあった。

「酒清水」なんていう素敵な名称の湧き水のあたり。 

 

山をなめてはいけない。

3000メートルであれ、

300メートルであれ。

 

無事に山を抜けた安堵感からか急激に腹が減ってきた。

まっすぐ歩けば国道8号線に出るし、

色々と店もあるがそこまでの気力は残っていない。

 

北陸道をくぐった先に「オレボ食堂」の看板があった。

どうやら北鯖江パーキングエリアに出店しているようだ。

これはありがたい。

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自販機に「醤油カツ丼」とある。

醤油カツ丼と言えば「大野」の筈で、

何度か行ってるわりにまだ当地では食していない。

 

オレボさんは福井の会社だし、

基本的にハズレがないしと注文してみた。

 

カツの上に大根おろし、ネギ、鰹節という組み合わせが何とも斬新だ。

添えられた醤油を垂らして食す。

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大根おろしに鰹節にネギ、醤油なんて、

僕ならこれだけで白飯を茶碗3杯は食える。

これに揚げたてのカツが加わる訳だ。

そもそも「まずくなる」要素が見つからない。

好物に好物を掛ければ相乗効果でうまくなる。

この組み合わせを考えた方に感謝。

 

僕は時計を見た。

11時20分。

えーっと次の北鯖江発の福井方面は、、、

11時34分、その次は12時34分。

 

僕は大慌てで北鯖江駅に向かった。

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