奈良で目覚めた朝は霧の中。
この日はおとなしく福井へ帰る、つもりだった。
しかしながら予定が狂ったのは、
7時10分発の京都行き快速電車に乗れなかったことで、
朝から何をやっているのかと情けない思いになりつつ、
隣に止まっていた加茂行きの電車を見たら
「あわてて帰る必要もないか」なんて気分になり、
木津から学研都市線の電車に乗って
大阪で昼飯でも食べて帰ろう、
そんな思いで加茂行きの電車に乗った。
電車内で時刻表を確認したら、
この加茂行きの電車は亀山行きに接続すると分かり、
夏に辿ったルートと逆だなとは思いつつ、
結局加茂まで行って亀山行きのディーゼルカーに乗り継いだ。
2両編成、ロングシートの車内は適度に埋まり、
加茂駅を8時16分の定刻に出発したものの、
この日は濃霧のためダイヤは大幅に乱れており、
「本日は濃霧の影響でダイヤが乱れております。対向列車到着までしばらくお待ち下さい」
そんなアナウンスがたびたび流れた。
乗客の皆さんは遅れなど一切気にする様子もなく、
スマホを眺めたり、参考書をめくったり、新聞を広げたり、
それぞれがそれぞれの時間を過ごしていた。
柘植を過ぎ、下り坂に差し掛かると、
これまでとはうって変わって見事な青空が広がる。
さて、どうするか。
亀山を9時24分に出る快速電車に乗り継げば、
名古屋着は10時32分。
地下鉄で藤が丘に出て、
そんなコースに惹かれたが、
これまで何度か乗っている。
ならばこれまで乗ったことのない路線、
と、時刻表の索引ページを開き、
三岐鉄道の文字を見つけた。
共に未乗であるし、
どうやら平日でも使えるフリーきっぷまであるらしい。
よっしゃ、三岐鉄道にするべ。
亀山で快速に、
住宅街の中を歩くと近鉄富田駅に到着。
三岐鉄道のフリーきっぷは何処で販売しているのかと思ったら、
線路を渡った西口で販売、とある。
西口へまわると随分小綺麗な駅舎が建っていた。
運賃表を眺めてみれば、
終点の西藤原駅までが520円となっており、
さらに時刻表を確認すれば営業距離は26.6キロもあり、
何だか随分良心的な運賃だなあ、
というのが第一の感想。
北勢線も乗りたいので1100円のフリーきっぷを購入。
ホームで待っていると、
黄色にオレンジの帯を巻いた2両編成の電車がやってきた。
平日の中途半端な時間にもかかわらず、
「案外お客さんがいるもんだな」
と思ったのもつかの間で、
向かいの近鉄名古屋線のホームに名古屋行の急行が現れると、
車内にいた半数近くの方が一斉に席を立ち、
急行に乗り込んでいった。
「・・・」
すぐに近鉄名古屋線と別れ、
JR関西線をまたぎ、
そのJRからつながる貨物線と合流して、
再びJR関西線をまたぐ。
Wikipediaによると、
貨物線の方が本線で、
近鉄富田駅を結ぶ旅客線の方が連絡線扱いであるそうな。
次の大矢知駅で貨物列車と交換した。
三岐鉄道のサイトによると、
鉄道敷設を計画した、とある。
現在も貨物輸送が主流のようで、
行き違いのできる駅など、
有効長がたっぷりとられ、
とても地方の鉄道とは思えぬほど立派なものだった。
電車は藤原岳に向かって淡々と走る。
進むにつれてだんだん車内は寂しくなっていった。
車窓も単調といえば単調で、
何度かあくびも出たりする。
貨物線が広がる東藤原駅を出発した時点で車内には僕を含め4人。
車窓で圧巻だったのが、
この先のセメント工場の敷地内を通過していく区間で、
思わず食い入るように見入ってしまった。
昔っから工場見学って好きだったのよな(笑)
西野尻駅で2人下車。
終点の西藤原駅で下車したのは僕を含めて2人。
ただ、もう1人の方もフリーきっぷを所持していたようで、
折り返しの電車に乗ったから、
恐らく同好の士であろう。
要するに普通のお客さんは1人もいなかった、
とも言える。
さて、当初の予定では、
しかしながらフリーきっぷに添えられたマップを見ると、
あくまで簡易的なマップではあるが、
そうたいした距離でもないように思われた。
そんなもので帰路は伊勢治田駅で下車。
同好の士も同じく下車。
どうやら考えることなどみんな一緒のようだ(笑)
伊勢治田駅からは住宅街を歩いて員弁川を目指す。
予想外の高台を三岐線の電車は走っていた、
というのは員弁川までが延々と下り坂であったことで、
逆ルートだとヘロヘロになっていたかもしれぬ。
員弁川を渡ると病院や銀行などが立ち並び、
「街」らしさを感じる一画に出た。
伊勢治田駅からの所要時間は約20分といったところか。
この時点で12時05分。
次の西桑名行きは12時39分発。
近くに天然かけ流しの温泉もあるようで、
飲食も充実しているようであったが、
こんなところで風呂に入れば間違いなくビールを飲みたくなるだろうし、
そうなれば福井に帰る気力を失いそうだったもので、
駅前にあった小さな食堂でうどんを食べた。
出汁がうまくて最後の一滴まで残さず完食。
阿下喜駅のホームに停まっていた電車を横から眺める。
元近鉄の車両だなあ、と思えるのは、
天井付近の丸みを帯びた造形で、
「やわらかさ」みたいなものを感じる。
ホームから再び車両を眺める。
北勢線の最大の特徴は線路幅が762ミリという、
ナローゲージと呼ばれる日本でも数少ない路線のひとつ、
ということで、
黒部峡谷鉄道のようなトロッコ列車なら何ら違和感もないのだが、
そこにあるのはあくまでコンパクトな通勤型の電車である、
というのが何とも新鮮な光景。
車内も当然コンパクトにまとまっており、
ロングシートで向かい合って座っても、
足が触れそうな、そんな気もする。
短足の僕には関係ないだろうけど(涙)
出発直前に乗り込んできた年配の女性は、
自分の背後の2枚の日よけを下ろすと、
続けて向かいの2枚の日よけも下ろした。
そしてどかっと席につくと、
「疲れたー、ああ、疲れたー」
と呪文のようにいい始めた。
何があったのだろうか。
電車が出発、
するなり凄まじいモーター音で、
アナウンスの音声も聞こえない。
うなっている、というか「私は全力で走ってます」そんな感じ。
力行が途切れるといったん静かになるが、
再び凄まじいモーター音。
そういや昔の電車って賑やかだったよなー、
なんてことを思う。
楚原駅で多くの学生が乗り込んできて、
車内は一気に賑やかになった。
ロングシートで向かい合う子たちの足が今にも触れそうで、
立ち客はどこにいればいいのだろう、とも思う。
時刻表を確認すると、
蘇原駅から西桑名方面は電車の本数も倍増するようだ。
ちょうど学生の下校時間に重なった、
というのもあるのだろうが、
各駅乗降ともに活発で、
冬休みを間近に控えた彼らの明るい表情が、
とかく暗い話題の多い地方の鉄道に
大いなる華やぎをもたらせていた。
さらにこの小さな車両は、
乗客同士の距離感を無意識のうちに縮めている、
そんな気もする。
駅に着くたびに、着席している乗客たちの足元も
連動するかのように動く。
電車は適度な乗車率を保ったまま、
終点の西桑名に到着した。
阿下喜からの所要時間は約47分。
小さな車両がこんなにわくわくするものだとは思わなかった、
それが小さなオッサンの正直な感想で、
所要時間の割に「あっという間」だったな、
とも思う。
北勢線の片道の運賃は470円なのだが、
阿下喜の温泉入浴とセットになった往復券が1000円で発売されており、
名古屋周辺で宿泊する機会があれば、
またぜひ温泉入浴も兼ねて来てみたい。
予想外にナローゲージが楽しかったもので、
四日市に戻って「四日市あすなろう鉄道」も乗ろうか、とも思ったが、
これ以上やると本当に福井へ帰る気力を失いそうだったので、
おとなしく快速みえで名古屋に向かい、
JRの列車を乗り継いで福井へ帰った。