僕が幼少時代を過ごした社宅の近所に、
観光名所でも何でもない小さな「滝」があった。
幼い頃の僕はそこで水遊びをしたり、
ボーッとしたりするのが好きだった。
富山に行ったら称名滝なる化けものみたいな巨大な滝に出会ってしまい、
それはそれで迫力もあってよかったのだが、
人知れずひっそりと存在するような滝に妙に心ひかれてしまう。
今まで日本国内あちこちうろうろ出かけ、
もっとも好きな場所は何処かと尋ねられたら、
何のためらいもなく迷いもなく、
黒部源流の赤木沢だと言える。
初めて行ったのは17歳の夏であるが、
名も無き美しい滑滝が延々と現れる光景にココロが踊った。
ちなみに小さくて恐縮ですが、
このブログのプロフィール画像で使っているのが、
まさに17歳の夏に赤木沢の出合で撮影したものです(汗)
それから幾度となく赤木沢に通ったが、
とにかく飽きることがなかった。
天候、水量、その他もろもろの諸条件により、
滝はいつだって同じ表情を見せることはない。
以下の好日山荘さんのサイトにたくさん赤木沢の写真があります。
http://www.kojitusanso.jp/tozan-report/detail/?fm=12549
本当なら毎日暑いし、
黒部源流の小屋にでも引きこもって
あっちこっち出歩きたいものであるが、
なかなか現実は厳しい。
ただ、無性に滝が見たくなる。
大きくなくてもいい。
名所でなくてもいい。
ひっそりと佇む、小さな滝を。
永平寺のわきに小さな滝がある、
そんなことを知ったのはつい先日の話である。
永平寺もこれまでかなりの回数訪れてはいるが、
そんな話はこれまで一切聞いたことがなかった。
所要時間はわずか30分弱で到達できる。
ただ、それだとあまり面白味にかけるので、
今回は路線バスを乗り継いで永平寺を目指すことにした。
福井駅前はちょうど3日間にわたる祭りのまっただ中であったが、
朝も早いこの時間はまだ人通りも少なく、
それでも前夜の喧騒の余韻なのか
どことなく浮ついた空気が漂っているのは感じた。
8時08分発、31系統丸岡城行きのバスに乗車。
ざっと見たところ15人前後と、
休日の朝にしては案外乗っている印象がある。
バスは途中で乗降を繰り返しながら40分弱で丸岡バスターミナルに到着した。
意外だったのは、ここで大半の客が下車するであろうと勝手に思っていたのだが、
ほとんどの乗客がそのまま丸岡城まで行ったことか。
この区間は3月27日の福井駅前乗り入れ時に延伸された区間で、
きちんと乗客のニーズを掴んだ延伸であったのだな、
そんな関心をする。
僕が丸岡城まで行ったのは単に丸岡バスターミナルでの乗り換え時間があったためで、
かといって丸岡城を散策する時間もなく、
ぶらぶら歩きながらバスターミナルを目指した。
丸岡の街はこれまでも自転車や、
バスで訪れたことはあったが、
いずれも「通り過ぎた」程度で、
ゆっくり訪ねたことはなかったのだが、
何ともココロ惹かれるラーメン屋があったり、
昭和の空間を色濃く残す空間があったりと、
何ともココロ惹かれる町並みが残っていた。
もう少し涼しくなったらまた来ようと思う。
何せ、徘徊を楽しむには暑すぎた。
丸岡バスターミナルで永平寺行きのバスを待つ。
次に乗車するのは9時53分発の永平寺行き。
冷房の効いた待合室には猫が一匹。
何とも人懐っこい猫で何だかほっこりする。
永平寺行きのバスに乗り込むと、
乗客は観光客らしい夫婦が1組のみ。
どちらから乗ってきたのかは存ぜぬが、
旦那さんが「おい、永平寺はこんなに遠いものなのか」なんて奥さんに言っている。
時刻表を確認すれば、
このバスの始発は三国観光ホテルで8時30分発。
東尋坊をぐるりとまわり、
福井県内の路線バスとしてはかれい崎〜田原町を結ぶ福鉄バスと並ぶ、
長距離路線と言える。
ちなみに三国観光ホテル〜永平寺の運賃は1700円。
かつて一時期バスの運転もしていた僕は、
一般道片道2時間の路線って大変だよな、
などと運転士さんのことを考えてしまう。
まさに福井の一大観光地を結ぶ路線にもかかわらず、
乗客が僕を含めて3人というのがあまりにも寂しい。
丸岡〜永平寺間にはかなり多くのバス停があるが、
ほとんどのバス停にも乗客の姿はなく、
バスは淡々と通過していく。
唯一乗客の姿があったのは永平寺口駅で、
それでも3人だけだったか。
丸岡バスターミナルからの所要時間は約35分で永平寺のバス停に着いた。
駅があった面影を残すものはなにひとつない。
決して歴史の重みを感じるような駅舎ではなかったが、
それなりに雰囲気のある木造駅舎であったと記憶しており、
解体されてしまったのが残念で仕方ない。
今は小さな待合室だけがポツリと建っていた。
永平寺の門前は流石に多くの観光客で賑わっていた。
皆が目指すのは無論永平寺である。
僕も今までならそのまま永平寺を目指したであろう。
だが、今回はその永平寺を通り過ぎる。
途端に人影は数えるほどになった。
永平寺川に沿って歩けば、
ほんの数分で目当ての滝は現れた。
その名を玲瓏の滝と言う。
恐ろしく暑い日であったが、
その場だけは何とも神聖、かつ涼し気な空気に満ちていた。
汗ばんだ額から、身体から、
スッと汗が引いていく。
ほんの少し手前までは、
びっくりする程に多くの観光客が訪れている。
それにもかかわらず、この滝の静寂感はいったい何なのだろう。
その清らかな流れに、手を触れてみる。
若狭町の瓜割の滝のように、
手がしびれるような冷たさはない。
しかしながら何処までも澄んだ水の流れは、
淀みきったココロを洗い流してくれそうな、
何とも言えぬ心地よさがあった。
帰りのバスを待ちがてら、
バス停前の井の上さんで田舎定食を頂いた。
炊き込みご飯、そば、ごま豆腐に煮物、和物がついて1100円。
つるりとした喉越しのいいそばと、
澄んだ出汁が何とも僕好みの味で、
ついつい飲み干してしまう。
勘定をすますと、
店員のおばちゃんが「お茶置いとくしゆっくりしていってね」
とありがたいひと言を頂く。
その言葉に甘えてバスの時間までゆっくり過ごさせてもらった。
帰路、11時43分発、三国観光ホテル行きのバスの運転士は往路と同じ方だった。
そして乗客はやはり僕を含めて3人だった。