一コマ残った青春18きっぷ。
それほど遠くもなく、
行ったことのないところ、
いや、乗ったことのない路線、
そんな思いで時刻表を開くと、
「近江鉄道」に目が行った。
米原駅や彦根駅、近江八幡駅でその車両の姿を見たことはあれど、
残念ながらこれまで一度も乗ったことがない。
さらに近江鉄道には週末フリーきっぷもあるとのこと。
こちらも未乗である。
よっしゃ、滋賀県に行くべ!!
お隣の県なもので特に目覚ましをセットする訳でもなかったのだが、
すっきり4時前には目が覚めたもので、
そのまま福井駅までぶらぶら歩き、
4時48分発の快速電車に乗り込んだ。
年末に香川に行く時は寝過ごして、
今回滋賀に行く時はしっかり目が覚める、
この違いは何だろう、、、
いっそのことこのまま香川県まで行ってやろうか、
いや、静岡に行って静岡鉄道も良さげだな、
と、ついついあれこれ余計なことを考える。
優柔不断な人間にとって
青春18きっぷとはとことん危険なきっぷである。
しかしながら福井に帰る気力を失いそうだったもので、
いや、今日は近江鉄道だ、
そう自分に言い聞かす。
米原着は6時27分。
当初はここから近江鉄道に乗り継ぐつもりでいたが、
1月のこの時間、周囲は真っ暗だった。
うーむ、どうするかと思い、
結局草津まで新快速に乗り、
草津線に乗り継いで貴生川に向かうことにした。
まだ早い時間だし、
何せ行き当たりばったりな旅である。
7時29分発柘植行の草津線電車は8両編成と豪華版だった。
「前4両は柘植行、後ろ4両は貴生川行きとなります」
女性車掌のアナウンスが流れる。
入線時はガランとした車内であったが、
出発直前にはほとんどの席が埋まった。
貴生川駅到着直前に、
再び前4両が柘植行、後ろ4両は貴生川で切り離す、
そんな旨のアナウンスが流れ、
「近江鉄道はお乗り換えとなります」
と、続いた。
あれ、信楽高原鐵道は?と思ったら、
「信楽高原鐵道はただいま車両故障のため運転を見合わせております。詳しくは駅係員にお尋ねください」
とのこと。
「・・・・」
7時57分、貴生川駅に到着。
周囲は一面霜がおりており、
とにかく「寒い」のひと言につきる。
狭いながらもきちんときっぷ販売の窓口があり、
改札口があり、
その先に鮮やかな水色に塗られた
元西武鉄道の車両がちょこんと停車していた。
窓口で「1デイ・スマイルチケット」なるフリーきっぷ(880円)を購入。
土日祝日のほか、金曜日も使えるとのこと。
運賃表を見れば近江八幡までが920円、
米原までが1030円とあったからずいぶん格安なきっぷではある。
時刻表ももらう。
きちんと冊子になった立派なもので、
広告ページはカラー版、路線図や車両紹介なんかもある。
近江鉄道の時刻はもちろんのこと、
JR貴生川駅、近江八幡駅、彦根駅、米原駅の出発時刻表まで掲載されており、
なかなか使い勝手が良さげだ。
車内は学生の姿も多く見受けられたが、
水口まででその大半が下車して何となく寂しくなる。
8時37分、
何となく「いい雰囲気」な気がして日野駅で下車。
年季の入った駅舎は1916年に改築されたものであるとのこと。
駅の周辺をぶらりとまわり、
9時11分発の近江八幡行に乗り継いだ。
9時31分、八日市駅に到着。
2面3線の構造で駅舎も近代的な立派なものが建っていた。
そこそこ大きな街でありそうだし、
この駅の周辺ならあとで昼飯を食べるにも困らなさそうだ、
とぼんやり思う。
▷http://www.ohmitetudo.co.jp/railway/station/index.html/
路線図を見ると、貴生川〜八日市駅間は「水口・蒲生野線」とあり、
彦根方面は「湖東近江路線」、
近江八幡方面は「万葉あかね線」なる愛称がついていた。
運転本数が圧倒的に多いのは、
「万葉あかね線」のようだ。
電車は方向転換して「万葉あかね線」へと入っていった。
出発してすぐに新八日市駅に到着。
ホームには多くの乗客の姿があり、
車内は一気に賑やかしくなった。
終点の近江八幡には9時59分に到着。
このまま引き返しても良かったのだが、
今度は北側から下ってみよう、
そんな気になってJRの新快速に乗り継いだ。
10時36分発の貴生川行きに乗車。
みなさん何処まで行くのかと思ったら、
大半の方の目的地は多賀大社であったようで、
途中に「豊郷」という駅があった。
この地にある豊郷小学校の建物は近年アニメの舞台になったそうであるが、
自分の中では旧校舎をめぐる建て替えの騒動というか、
ニュースが何となく記憶に新しい。
八日市で昼食をとってから訪ねてみようか、
と、この時は思っていた。
電車は五箇荘駅を出発して加速。
「朝はモーニング、昼は定食、夜は居酒屋、八日市駅前の御食事処は〜」
そんな感じの放送が流れた次の瞬間、
電車は急停止した。
「前方の踏切で不具合が発生しております。しばらくお待ち下さい」
そんなアナウンスが流れる。
どうにもこうにも最近僕が乗る列車は停まってばかりいるようだ(涙)
何があったのか分からぬが、
2分ほど停車したのち再び電車は動き出した。
八日市駅に到着。
改札口で老夫婦が「タロウボウに行きたいのだ」と、
駅員さんに尋ねている。
「タロウボウはあちらのホームへ行って近江八幡行きの電車です。まもなく出発です」
駅員さんはそう言ったが老夫婦は改札口を抜けようとする。
「いや、こちらではなく反対側のホームです」
僕が階段を指差すと、
「どうも、困っちゃうねー」と婦人が笑った。
確かに構造的に階段の位置がわかりづらい、そんな気がした。
先程電車内で耳にした八日町駅前の「さざなみ」という食堂に入った。
外装も中も喫茶店そのものなのだが、
メニューを眺めると、
朝はモーニング、昼は定食、夜は居酒屋といろいろ対応してそうだ。
こんな店が駅前にあるとありがたいよな、
そんなことを思いつつ店主らしき女性に「牛すじ丼」を注文した。
牛すじ丼を待つ間、
気になったのは「タロウボウ」で、
近江八幡に向かう途中に「太郎坊前駅」なんてのがあった。
調べて見ると「勝利と幸福を授ける神様」とある。
うーむ、気になる。
勝運の神・太郎坊宮ホームページ | 勝利と幸福を授ける神様・太郎坊宮のホームページです
ほどなくして牛すじ丼が供された。
牛すじと緑のネギ、卵黄のコントラストが美しい。
甘く煮られた牛すじはほろりとやわらかで、
卵黄を崩して食せばああシアワセ。。。
具がたっぷりはいった味噌汁もアツアツでしみじみ旨い。
ごちそうさまでした。
豊郷小学校に行くか、
太郎坊宮に行くかで悩んだが、
八日町駅に戻ると近江八幡行の電車が出発間際であったもので、
そのまま乗り込んだ。
車窓右手の山肌にずいぶん立派な建物が見える。
あれが太郎坊宮だろうか。
うーむ、案外行くの、大変かも、、、
年末に参拝した「こんぴらさん」で、
新年早々「筋肉痛」に見舞われたものでしばしためらったが、
せっかくなので行ってみることにした。
太郎坊宮前駅で下車。
田園地帯にまっすぐに伸びる参道を進む。
麓からの階段は742段あるそうな。
途中まではクルマでも行けるようで、
階段を目の前にした若い男女が
「やっぱりクルマで行こうよ」なんて言っている。
そんな手段もない僕は
意を決して登り始める。
この日の滋賀県は、
陽は上がれど気温はたいして上がらず、
じわりと身体が温もるのを感じるも
汗が吹き出すなんてこともなく、
新年早々の試練である、そう自分に言い聞かせつつ階段を上る。
ひいひい言ってるおじさん(僕)の脇を、
子供たちは軽やかに駆け上がっていく。
参拝しているのは地元の方が多いようで、
すれ違いざまに「おめでとうございます。今年もお願いします」
そんな声をたびたび耳にした。
夫婦岩と呼ばれる巨大な岩の間をくぐれば本殿。
どこまでも青い空のもとに広がる平野部を眺めると、
ああ、来てよかったと思う。
お守りを買って階段を下る。
途中ですれ違った中年の夫婦が、
「本殿はまだ先ですか」とぐったりした表情でいう。
「あと500段くらいですかね」
僕が正直に行ったら
「行くのやめようよ」なんて奥さんが言っている。
太郎坊宮前駅へ再び戻る。
もう少し近江鉄道を堪能してから福井に帰ろうと思っていたが、
太郎坊宮を参拝した後はどことなく気分が高揚しており、
この気分を維持したまま福井に帰りたかった。
あまり欲を出すとロクなことがないのは、
これまでの人生において多々経験済みである。
再び近江八幡駅から新快速に乗り、
僕は福井へと帰った。
翌日は年末に運行開始した
桜色のFukuramに乗る気まんまんでいたが、
結局筋肉痛で動けず、
風呂だけ行って一日が終わった。