青春18きっぷを手にして、
紙の時刻表なんぞをめくりつつ、
どこへ行くかと考えるのは至福の時間であったりしたし、
若かりし頃は北海道や四国、近年でも紀伊半島をぐるり一周なんてこともやったけど、
50歳も手前になると、
「このあたり混んでるし嫌だなあ」とか、
「腰が痛くなりそう」とか、
「先日乗った新快速はトイレが故障で使えなかったのよなあ」とか、
ついついネガティブなことばかり考えてしまい、
なかなか行き先が決まらない。
こんな時は駅に行って成り行きで決めよう、と西明石駅に行ったら、
ちょうど播州赤穂ゆきの電車があった。
西明石から播州赤穂までの片道運賃は1170円、往復で2340円。
青春18きっぷは一コマあたり2410円であるから、
往復するだけなら元は取れぬが、
前回に十分すぎるほど乗ったのでまあ良かろう。
地元でお好み焼きでも食ってくるか、てな感じで乗り込んだ。
あまり知られてないかもであるが、
赤穂は安くてうまいお好み焼き屋が案外多い。
播州赤穂ゆきの電車は姫路に到着した。
するとこの電車、姫路で18分も停車するという。
隣のホームには山陽線経由の三原ゆきが止まっており、
そちらが先発するようだ。
岡山で路面電車に乗るのもよいかもしれぬ、
なんて気になってきて乗り換えた。
調べてみると岡山には案外アーケードの商店街も残っているようであるし、
銭湯もいくつかあるようだ。
徘徊するにはちょうどいい、と思っていたが、
岡山まで行くと、どうしても瀬戸大橋をわたりたくなってしまう。
しかしマリンライナーっていつ乗ってもめちゃくちゃ混んでるよなあ、
指定席でもとるか、
と思いつつ、JR西日本のアプリをいじっていたら、
マリンライナーの先頭グリーン席が空いていることがわかった。
マリンライナーのグリーン車は未乗であるし、これはぜひ乗りたい。
さらにマリンライナーのグリーン車はeきっぷだと470円で乗れるらしい。
青春18きっぷでの利用は不可能。
ということは別途運賃が必要ということになる。
調べてみると岡山ー高松の運賃は1660円、グリーン料金をプラスして2130円。
ああ、どうしよう、こんなに追加すると青春18きっぷを利用している意味がなくなるのではなかろうか。
電車は上郡をすぎて岡山県に入った。
ああ、どうしよう、マリンライナーのグリーンに乗りたい、
けどプラス2130円、ああ、どうしよう。
電車は和気をすぎた。
ここでケチると一生後悔しそうな気がして、
僕はようやくポチることにした。
マリンライナーの先頭グリーン席で過ごした時間は、
追加料金を払ったことが何ら惜しくない、充実したものだった。
高松に到着。
マリンライナーの車内で、高松から直島経由で宇野に渡ろう、
そんなふうに考えていた。
しかしながら、ちょうどいいタイミングで女木島、
通称鬼ヶ島へ渡るフェリーが出ることが分かった。
直島は本州側からもアクセスできるが、
女木島はそうもいかぬ。
これも何かの縁かもしれぬ。
船内の印象は若い子たちと外国人観光客が非常に多いということか。
そんなこともあってか賑やかしい。
離島へ渡る船が賑やかしいのは結構なことだ。
あと、高松港で眺めてたら、積載する車はバックで船に入っていた。
「右に切って、右!右!まっすぐ!!」
係員の人が叫んでいる。
運転に不慣れな人にはなかなかプレッシャーがかかりそうな光景だった。
約20分で女木島に到着。
島の中央に洞窟があるとのことで向かってみた。
(バスもあったが、港をうろうろしているうちに出発してしまった)
洞窟は思いの外山の上にあり、到着した頃にはヘロヘロ、
かつ汗だくに。
洞窟の前には自販機があり「助かった」と思ったのもつかの間、
すべて売り切れになっていた。
洞窟の入場料を支払うと、係のおじさんが
「歩いてきたんですか」と笑い、
「中は涼しいですよ。外に出たらぜひ展望台にも行ってみてください」
云々といろいろ教えてくれた。
一歩足を踏み入れると、嘘見たく涼しい。
そして、人は自分以外におらず、鬼だけがいろんなところにいた。
洞窟を抜けると夏の日差しが降り注いでいた。
山をくだる。
この日は祭りでもあるのか、港のある集落ではお囃子の音が響いていた。
港近くの食堂に入り、ホルモンうどんを注文。
ちょうど食事を終えて席をたとうとしていた若者に、
店の女将さんが「水筒持ってるんやったら水いれていきよ。自販機あっても売り切ればかりやから」と言っている。
何だかテレビ番組でよく見かける沖縄の食堂みたいな雰囲気の店だった。
感じのいい女将さんからペットボトルのジュースも購入して店を出た。
帰りの船の時間まで、
海水浴場で過ごすことにした。
端っこの岩場で汗で濡れたTシャツを脱いで乾かす。
いやはや、夏ですなあ。
そしてたいした時間でもなかったのに、
僕の白い肌(顔と腕を除く)はいつしか真っ赤に。
再び船に揺られて高松へ戻る。
せっかくなので高松の銭湯も訪ねてみたい。
今回お邪魔したのは吉野湯さん。
ちょうど開店してからの第一陣が上がったタイミングだったのか、
脱衣場はそれなりに賑わっていたが浴室内には数名のみ。
浴室内で目を引くのは水風呂が一般家庭にあるような浴槽であったことか。
神戸の湊山温泉にも似たような浴槽があれど、
あちらは丸みを帯びたタイプなのに対し、
こちらのは真四角なもので「家庭用」的な雰囲気が際立っている。
その浴槽に、ちょっと強面の見事な彫り物のある爺さんが浸かっているのが
妙にシュールな光景であったりする。
さらに特筆すべきは湯の熱さ。
僕が熱い湯に入れるようになったのはここ数年のことだから、
若い頃だったらまず入れなかっただろう、と思えるほど熱い。
やはり港町は熱い湯が好まれるのだろうか。
ただ、炎天下を歩いたあとの熱い湯は何とも心地よい。
湯を上がると、
さっきの強面の爺さんが僕を見て、
「もう上がったんか、早いな」と笑っていた。
湯上がり、スーパーで缶ビールを買い求め、
ぐびりと飲み干してから高松駅を目指した。
なんとなく、だけど高松は昼飲みスポットも充実している印象。
今度は町中を中心に回って昼飲みも堪能してみたい。
僕はもう一本缶ビールを買って、帰りのマリンライナーに乗り込んだ。