一応健康であることだけがとりえの人間であると自覚しているし、
そんな自分が唯一人様のお役に立てること、と、
近年は2週間に1度のペースで献血に行っているのだけど、
富山の献血ルームにおける唯一の不満は、
待合室でワイドショーが垂れ流しになっていることであろうか。
そもそも今の御時世、待合室で会話をしている人なんて皆無であるから、
酒に酔ったオヤジレベルの話が延々と公共の電波を通じて、
静かな空間に響き渡っているのである。
これを不快と言わずして何を不快と言えばいいのだろうか。
そんでもって有意義な情報でも流しているならまだしも、
コロナに関する不安を煽るようなことばっかりやっている。
司会者のキンキン声を聴くだけでもうんざりするから
できるだけ意識を遠ざけるようにしているが、
それでも耳には入ってくる。
そんでもって番号呼ばれて採血室に移動し、ほっとしたのもつかの間、
今度は隣のベッドについた爺さんが
「朝乃山にはがっかりやちゃ」から始まって、
各ベッドには個々に小さなテレビがあるもので、
それを見ながら
「わしもワクチン接種の予約ができない」うんぬんと、
ワイドショーの内容とおんなじことを看護師さん相手に喋っている。
無論、そんな爺さんにも看護師さんたちは笑顔を絶やさず対応する。
本当に大変だろうし、頭が下がる。
そしてその爺さんの話が延々と聞こえてくる僕はだんだん気が滅入ってくる。
そもそもだけど僕は「どーでもいいことをよくしゃべる男」というのが
生理的に苦手なのだ。
ワイドショーが苦手なのもそのあたりにあるのかもしれぬ。
「爺さん、頼むから黙ってくれ」とは思うがぐっとこらえ、
献血を終える頃には何だかぐったりした気分になっていた。
ワイドショー+隣の爺さんの喋りで不快指数がマックスまで上昇したもので
気分転換に電車に乗って出かけることにした。
当初はせいぜい市電に乗るくらいのつもりでいたが、
駅に行くとちょうどいい時間にあいの風とやま鉄道の電車がある。
よっしゃ、久々に高岡に行くべ。
今回、高岡を目指したのはちょっと前の北日本新聞の記事を思い出したことによる。
高岡駅併設の商業施設「クルン高岡」に、2年ぶりとなる新店が8日、オープンする。高岡市下関町の焼き鳥居酒屋「串道楽 潤」のテークアウト専門店「高岡駅弁」で、西野兼市代表は「にぎわい創出に貢献したい」と話している。
(中略)
クルン高岡には他にも空きスペースが4カ所ある。運営する高岡ステーションビルは「正面の目立つ場所に新規出店してもらい、非常にありがたい」と話している。《北日本新聞・5月7日》
実際にクルン高岡の一番目立つ場所が空き店舗になっていて、
長らく寂しい状況であったのだけど、
そこに新規出店したのが「弁当屋」と知ってがぜん興味がわいた次第。
僕は食堂も好きだけど弁当も好きなのよな(笑)
高岡に到着して目指すお店へ。
テイクアウトだけかと思っていたが、店内にも食せるスペースが設けてあった。
弁当は「とりめし」と「とりかつ」の2種類でともに500円と良心的。
他にもチキンやスイーツがあるようだ。
「とりめし」を購入。
どこで食べるかは電車の中で決めていた。
御旅屋セリオの屋上である。
以前、大和が入ってた頃、店員さんが弁当を食べてるのを見たことがあって、
「ここで弁当食べればサイコーだよな」なんてことを考えていたのだった。
ところが、この日のセリオは大半の店が定休日だったようで、
最上階まで上がることはできたものの、
外に出る扉は閉鎖されていた。
「・・・」
1階にベンチと椅子があったよな、と思い、
下ってみたら「こちらでの飲食はご遠慮ください」とある。
「・・・」
だがその下に小さく「飲食は6階のフリースペースをご利用ください」ともあった。
そんなもので6階へ行って開封の儀。
「高岡駅弁」のロゴが何ともカッコいい。
封を開ければごはんの上にぎっちり鶏肉が敷き詰められていた。
鶏肉はたっぷりはいっているし、
かつ柔らかいし、
ただただシアワセな気分。
一方で、クルン高岡にはそば屋さんやイタリアンも入っているのだから、
それぞれの店で気楽にテイクアウトして、
一同に食せるフードコート的なスペースがあってもいいのではなかろうか、
なんてことも思ったりもした。
あー、うまかった。また高岡行ったら寄らせてもらいます。
久々の高岡なので、後は銭湯にでも入って帰ればそれで満足、であるが、
一応、献血後2時間は入浴をご遠慮ください、というルールがあるので、
しばらく町をうろうろ。
山町筋から一歩入ったところにあった、
崩壊寸前の銭湯は建物の大半が撤去されていた。
しかしながら煙突はそのままで、
ブルーシートの下にはかつての浴室らしきタイルが見える。
どんな雰囲気だったのだろうかとあれこれ想像するのは、
楽しくもあり、寂しくもある。
そして、この銭湯は随分前に廃業されていたようだが、
高岡に限らず富山県内の銭湯もここ数年で着々と姿を消している。
僕にできることはただひとつ、銭湯に行くこと。
今回は末広町の松乃湯へ。
ここのところ、よほどタイミングが悪かったのか、
閉まっていることが多かったもので、
ふつーに営業している、ってことがただただ嬉しい。
レトロ以外の言葉を思いつかない空間で
スピーカーから流れるド演歌を聴きつつ湯に浸かっていたら、
何となく視線を感じて、
色黒のがっちりした体格の爺ちゃんと目があった。
向こうは「・・・?」てな顔をしているし、
それは僕もまた同じだった。
山小屋のお客さんだったのかもしれないし、
どこかの食堂のオヤジさんかもしれない、
名前までは知らぬがどこかで会ったことがある、
いや、何か一緒の仕事をしたことがあるのかもしれない。
似たようなことは、亀谷温泉の白樺ハイツや、立山町のグリーンパーク吉峰の風呂だとたびたびあるのだけど、
高岡では初めてである。
まあ、風呂だと服を着てる訳でもないし、
髪の印象も違うだろうから、
お互いに完全に誰かと勘違いしていることも十分考えられる。
てなもんで余計なことは言わずにちょこんとだけ頭を下げたら、
爺ちゃんの方もちょこんと頭を下げ、目を閉じた。
高岡駅で電車を待っていると
行きに感じてた不快な気分は一層されていることに気付いた。
今の僕に最も必要なものは「テツ分」と「うまいもん」と「銭湯」なんだなあ、
と、改めて思う。
僕はいい気分のまま電車に揺られて富山に帰った。